発注先を複数確保しなかったのは
テレビ局の戦略上の失敗

 ここまで見てきたように、売り手がしたたかに買い手と渡り合い、徐々に相手を丸め込んでいく一方で、業界内で上手なすみ分けを守る体制を作っていたなら、本来は強い立場であるはずの買い手が売り手に対して劣位に置かれてしまうのである。これは売り手のジャニーズ事務所から見れば戦略的な成功であるが、買い手のテレビ局から見れば、明らかな戦略上の失敗である。テレビ業界のリスクマネジメントとしては、少なくともジャニーズ事務所と同等に発注できる会社を最低でも1社、できれば2~3社は作っておかなければならなかった。

 よって、今後、TV局がジャニーズ事務所との関係で総括すべきは、もちろん倫理的視点が中心になることを前提としつつも、戦略上のリスクマネジメントの失敗をも考慮することであろう。戦略上の問題を理解しつつ、何らかの理由――たとえば癒着などのために、あえて対応策を取らなかったのであれば、それは意思決定者のコンプライアンス上の問題となる。

 さて、このような買い手劣位の状態は、他の業界でも起こっているし、公共の分野、たとえば国家のエネルギー政策や食糧調達などでも日々当たり前に起こる現象である。最近なら、ロシアのウクライナ侵攻時のドイツのエネルギー確保問題(ロシアに過度の依存をしていた)や、レアアース・レアメタル問題などがそれに当たる。

 読者の皆さんも自社の状況を考えてみてほしい。うまいこと売り手(供給業者)に入り込まれ、気が付くと他社に代替できないような構図が作られ、売り手がひそかにもうけている領域があることを発見できるはずだ。

 こういう場合、売り手はしたたかに賢く入り込んできたのである。だから、こちらもそれに気づいていることなどおくびにも出さないようにしながら、売り手の上を行くくらいに小器用に画策し、いざとなったらいつでもその売り手を追い出すか、他社に変えることのできるような体制を作るべく、慎重に対応策を練り、実行しなければならない。

 買い手が売り手への交渉力において劣後するこの問題は、解決に向かうまでがとても厄介で、もともとの原因を作った社内の人たち(こういった、いびつな業績向上で出世した人たち)を糾弾したい気持ちになるが、とにかく、長期的展望を持って、売り手を強く刺激しないように少しずつ現実を変えていくことが大事である。

 しかしながら、本件のように問題が表面化した後は、ひそかにやる必要はまったくない。現在、売り手は買い手に対してとても反撃できるような状況にはないわけだから、少数ではあっても存在する別の会社の商品を大量に購入し、育成すれば良いのだ。

 もし、それもできないほど、買い手が弱い(=その売り手なしでは番組の制作もできず、広告主も取れない)というのであれば、そのくらい社内が衰弱しているということだろう。本当にそうなのであれば、「ご愁傷様です」としか言いようがない。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)