スイッチングされないように
あの手この手を使う

仕入先統合のおそれがないと確信できる買い手は、交渉力が弱い。仕入先を川上に向かって統合できるだけの力がない買い手は、交渉力を完全に発揮できない。

 売り手が高い価格で商品を売りつけ、買い手がその価格をのまざるを得ず、売り手が過剰に利益を確保しているなどの場合に、いざとなったら買い手が売り手に対して「買収するぞ!」と言えるなら、その可能性(と脅し)により交渉力を確保できる。しかしながら、売り手の財務状況が健全で借金などがなく、株式が非公開であれば、このような交渉力を発揮することはできない(おそらくだが、ジャニーズ事務所の財務はすこぶる良いはずで、株式は非公開である)。

●仕入先の変更には大きなコストが必要になる買い手は、交渉力が弱い。仕入先を変えるためには、多大なコストが必要になるような買い手もある。たとえば、その製品の仕様が特定の仕入先の部品仕様に合わされている場合とか、特定の仕入先の器具を使用するために多大な投資をしてしまった場合などがこれに当たる。

 売り手は、買い手に逃げられないよう、つまり他社に乗り換えられないように、スイッチングコストを高めるために最大限の努力を払う。システム統合をして、そこにたくさんの追加投資をさせて、その会社との関係を断つと大損するようにするとか、共同特許の形にして、他社に乗り換えようとしたら今までの経営資源の蓄積をすべて使えなくなってしまうようにするとか、低コストでアウトソーシングを受け、売り手の社員が買い手の会社に常駐して、買い手の社員を誰も実務に触れさせない……といったことを巧みに行うのである。

 このアウトソーシングの方法では、当初、売り手が請け負ったアウトソーシングの外注費は一見低く設定してあるので、買い手の現場の担当者は原価や経費が削減できて大喜びする。しかし、その状況に甘んじていると、次の次の回の価格交渉の際に、売り手の言いなりになるほかない。

 次の次の回と言ったのは、次の回くらいでは、まだ買い手の会社にもその仕事ができる人が残っている可能性があるが、5年後、10年後には、もう誰も業務がわかる人がおらず、売り手の言うことを全部聞かざるを得なくなっているだろうからである。

 番組制作においても、単に特定のアイドルが歌って踊っているだけであれば、スイッチングコストは低い。しかしそのアイドルが番組のMCになりそのアイドルの冠番組の放映が続くということになれば、それを代替できるタレントを他から探してこなくてはならないので、スイッチングコストは上がる(その点、ジャニーズ事務所のタレントは総じて質が高く、歌って踊れて、しかもしゃべれる!)。番組制作の企画までアウトソースするようになると、そこまで含めて代替者を探すのは難しくなる。さらには、アウトソースが続き、本来は社内で行うべき番組企画能力が低下して(なくなって)いれば、売り手の言うことをすべてのまざるを得なくなる。