「頭痛が痛い」「後から後悔する」。これらは有名な重複表現ですよね。このほかにも、多くの人が気づかずに使ってしまっている重複表現がたくさんあります。国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、12の「やりがちな重複表現」を正しい表記とセットで紹介します。あなたはいくつ気づけますか?(構成・撮影/編集部・今野良介)
重複表現に気づくトレーニング
話し言葉には冗長性があります。耳から聞いてわかりやすいことが大事ですので、少々の繰り返しはいといませんし、多少のくどさも許容範囲です。
一方、書き言葉は目にするものですので、冗長性は極力抑える必要があります。とくにビジネス文書ではスピード感が求められ、スピード感のある処理のためには簡潔な伝達が必要なので、重複表現は避けたほうがよいでしょう。
次の文は比較的よく見かける重複表現です。見慣れているので見落としがちですが、どこに重複があるのか、確認してください。
①まず最初に開会のあいさつがある。
②その場しのぎだと、あとで後悔するよ。
③あらかじめ準備しないと不安になる。
④来社によるご相談は、事前予約をお願いします。
⑤各自治体ごとにそれぞれ独自の健康増進プログラムがある。
⑥大好きなプチトマト、いっぱい入れすぎてしまった。
⑦二人は唖然として、おたがいに見つめあっていた。
⑧この手作りクロワッサン、プロ並みのレベルの腕前だね。
⑨購入したばかりの新しいICレコーダーが壊れてしまった。
⑩今の現状を何とかしたい。
⑪交渉がうまく進む、ちょっとした豆知識を教えてください。
⑫重要なマニュアルなので、繰り返し読み返した。
さて解答です
①「まず最初」は「まず」と「最」が重複しています。「最初」だけで十分ですし、「まず」が使いたければ、「まず初め」でよいでしょう。
②「あとで後悔する」は定番の重複表現です。「後悔」を先にする人に誰も会ったことがないでしょう。
③「あらかじめ準備する」の「あらかじめ」も不要でしょう。「後から準備する」ことはないとは言えませんが、とくに断らなければ、準備は事前にするものです。
④「事前予約」の「事前」も③と同じ意味で不要です。予約はふつう事前にするものです。
⑤「各自治体ごと」もありがちな重複表現です。「各」と「ごと(毎)」は重複しています。「各自治体」か「自治体ごと」がよいでしょう。
⑥「いっぱい入れすぎる」と表現したくなる気持ちはわかりますが、「少なく入れすぎる」ことはできません。「いっぱい入れる」か「入れすぎる」でしょう。
⑦「おたがいに見つめあう」のも重複表現です。「おたがいに」があれば「見つめる」で十分ですし、「見つめあう」とすれば「おたがい」は不要です。
⑧「プロ並みのレベル」は重複表現です。「プロ並み」であれば「レベル」は不要です。「プロのレベル」であれば問題ありませんが、「プロ級」という簡潔な表現がベストでしょう。
⑨「購入したばかり」のICレコーダーは、中古品でないかぎり「新しい」に決まっています。「新しい」は不要です。「新たに購入したICレコーダー」とすることも可能です。
⑩「今の現状」というのも「今」と「現」がかぶっています。「現状」で十分ですが、つい「今の」をつけてしまったのでしょう。
⑪「ちょっとした豆知識」は重複表現です。「豆知識」自体がちょっとした知識なわけですから、「ちょっとした」は余計です。
⑫「繰り返し読み返した」の「読み返した」は複数回読んだことになります。3度も4度もということで「繰り返し」をつけたのかもしれませんが、だとしたら「繰り返し読んだ」でよいでしょう。「何度も読み直した」というのも同じパターンです。
①最初に開会のあいさつがある。
②その場しのぎだと、後悔するよ。
③準備しないと不安になる。
④来社によるご相談は、予約をお願いします。
⑤各自治体にそれぞれ独自の健康増進プログラムがある。
⑥大好きなプチトマト、入れすぎてしまった。
⑦二人は唖然として、見つめあっていた。
⑧この手作りクロワッサン、プロ級の腕前だね。
⑨購入したばかりのICレコーダーが壊れてしまった。
⑩現状を何とかしたい。
⑪交渉がうまく進む豆知識を教えてください。
⑫重要なマニュアルなので、繰り返し読んだ。
重複表現は比較的似たパターンが多いので、一度頭に入れてしまえば、重複表現に気づけるようになるでしょう。
拙著『ていねいな文章大全』では、このほかにもたくさんの重複表現例や誤用表現の例などを紹介しています。
【Point】
・冗長性が許される話し言葉とは異なり、書き言葉は簡潔性が求められるので、重複表現は可能なかぎり避けたほうがよい。
・重複表現は比較的決まったパターンが多いので、そのパターンに慣れておけば重複表現に気づきやすくなる。