テロメアとそれを修復する酵素……。
30代中盤に入った私のテロメアは、やはり短くなっているのだろうか。「美魔女」と呼ばれる母の細胞では、やはりテロメアが長いままなのだろうか。

「テロメアは『長寿遺伝子』などと呼ばれたりもしているが、厳密に言うと、それ自体は細胞でも遺伝子でもない。染色体の一部であり、遺伝子と同じDNAの配列にすぎん。
ただ、通常の遺伝子はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)のさまざまな組み合わせから構成されているのに対し、テロメアではTTAGGGという塩基配列の繰り返しがひたすら続くという特徴があるんじゃ。ちなみに、このTTAGGGの繰り返しは、新生児だとおよそ1万塩基対、35歳で7500対、65歳で4800対ぐらいになるとされているぞ」
私は「35歳」のところで、スコットがこちらをチラリと見るのを見逃さなかった。私のテロメアも、おそらく新生児の4分の3くらいになっているというわけか……。

「……ということは、テロメラーゼをしっかり働かせることが、現時点の科学に基づいて言える、最高のアンチエイジング術ってわけ!?」
「そういうことになる。実際、人の容貌とテロメアの長さは関連しておって、若く見える人はテロメアが長い傾向にある、という研究結果があるんじゃよ*。
やや極端なことを言えば、テロメラーゼはテロメア短縮を遅らせたり防いだりするだけでなく、その時計の針を逆回しすることすらできる。まさに『若返りの酵素』というわけじゃ」
「若返り」と聞いた私は、思わず息を呑んだ。

* Christensen, K., Thinggaard, M., McGue, M., Rexbye, H., Aviv, A., Gunn, D., ... & Vaupel, J. W. (2009). Perceived age as clinically useful biomarker of ageing: cohort study. BMJ, 339, b5262.

テロメアのケアは「健康」にも不可欠―健康年齢と病気年齢

「テロメアの長さは、寿命の長さと関係している。ある意味では、テロメアは寿命のバロメーターなんじゃ」
私の頭に浮かんだのは祖母のことだった。あんなに生き生きとしていた祖母が、急に老け込んだのは、やはりテロメアの短縮が進んだからなのだろうか。