キャリアづくりの支援は、習得可能な「スキル」

 ここまで読んで、こう思った人もいるかもしれない。

「話はわかるし、そりゃそこまでやれたら理想的だけど、時間もないのに現実的じゃないよ」「そもそもそこまで全員に寄り添わなければならないのか?」

 まったくそのとおりで、職場はやりたいことだけをやる場所ではない。給与や報酬を受け取っている以上、本来、仕事は「個人にとって何のメリットになるか」を説明してもらってやるようなものではない、という意見に私も完全に同意する。

 ただ、組織の成果・パフォーマンスを持続的に高めることが最上位のマネジャーの役割だとすれば、こうしたキャリア支援やマネジメントのスタイルは成果を出す手段として、当然必要になる。実際に、前例のAさんのように、個々人の違いに目を向けなかった結果、チームとして成果を出せなくなれば、それは「いい仕事」とは呼べない。

 メンバーの成長や中長期のキャリア支援ができるマネジャーも、決して暇なわけではない。実際に、組織コンディションがよく、メンバーの成長も促進し、成果も出している組織を分析すると、マネジャーは、みな忙しい中で、関わる時間を「捻出」しているのだ。

「やり方がわからない」という声もある。ただ、「キャリアづくりの支援」も他のあらゆる仕事と同じく「スキル」だ。最初から上手な人はいないかわりに、後からでも習得可能だ。

 第一歩は、メンバーとキャリアについて対話し、「ありたい姿」や、成長したい能力の優先度の目線合わせができること。これだけでも、メンバーが同じ仕事から学ぶ量や成長幅は大きくなる。

 最後に、「仕事の成果を出すためには、個々のキャリアなんかに向き合うよりも、上長である自分がやったほうが速い」という考えについて。私もコンサル時代は、すべて自分でやったほうが、品質も管理できるし、手戻りもないので速いと思っていたときもあった。ただ、それでは自分のキャパ以上の実務はできないし、そもそも、ポジションが上がるほど無理が出てくる。つまり、「すべて自分でやる」スタンスでいる以上、一定のポジションまでしかいけない。経営には近づけないのだ。