メンバーは、「チームの関係性はいいし、個人も尊重されてはいるけれど、同じような仕事が多く、成長を実感しづらい」と言う。逆に成果を出しているメンバーは、「ここで身につけるべきことは身についたので、別の環境で新しい成長機会にチャレンジしたい」と、退職していた。それを見た若手も、大半が「実務がある程度できるようになったら別の環境でチャレンジしよう」と思っているようだ。経営としては優秀な若手をアサインするわけにもいかず、どうしたものかと困っているという。

 続いてのマネジャーCさん。メンバーは成長実感もあり、離職率も低い。毎月目標を達成しながら、かつメンバーのエンゲージメントも高く、経営としては次の役員候補として考えている。どんなマネジメントをしているかを見ると、組織の方向性と個人の成長をうまく連動させていた。

 組織の方向性を示すビジョン、ビジョンに紐づいた事業、事業を担うメンバーの実務、「ビジョン―事業―個人」をうまく連動させ、キャリアづくりをしっかり支援していたのだ。

 会社のビジョンは、「住まいの選択のあり方をアップデートし、幸せな家庭の数を最大化する」だ。このCさんも、最初のAさん同様に、期初にはチーム目標からブレイクダウンしたKPIを各自に落とし込む。ここまでは一緒なのだが、Cさんは、必ずそのビジョンや意味合いを伝えている。

「自社は幸せな家族と個人を増やすために存在する企業だ」
「ビジョンの実現は、顧客の接点である我々が、お客様の理想を知ることから始まる」
「そして、幸せな家族と個人を増やすため、その接点において、ユーザーファーストで、1人ひとり異なる幸せの形を一緒に模索して、最適な提案をしてほしい」
「みんなの行動によって利益が生まれ、その結果新しい取り組みや新メンバーが加入し、さらに社会に提供できる価値の総和が大きくなる」

 メンバーの行動が、自社のビジョン、社会、そして、関わる顧客にとってどういう意味を持つのかを丁寧に共有していたのだ。

 詭弁を用いて、無理やり納得させているわけではない。実務と、顧客の声や社会との接続を意識し、マネジャーであるCさんの解釈も、借り物ではない自分の言葉で伝え、メンバーからの解釈も聴き、相互に対話していた。