確かに、すべてがあまりにも急作りだった。というのも、この「ナイトバイブ香港」キャンペーンの開催が発表されたのは、開会式を実施する約1週間前。筆者はそのニュースを聞いたとき、すぐさまその詳細を知ろうと公式サイトを探したが、その週の週末の時点になっても告知用のサイトすら公開されていなかった。

 それもそのはず、実は香港のナイトビジネス振興の声が突然トーンアップしたのは、この8月初めのことだったからだ。きっかけは親中メディアや香港に駐在する中国政府関係者が観光地香港の魅力と引き合いにして、今年突然観光客が殺到するようになった山東省の淄博(しはく、中国語読みは「ずーぼー」)や、香港との境にある深センのナイトライフの充実ぶりを語り始めたからだった。そして、「眠らない街」といわれた香港を当てこすり、暗に政府に圧力をかけたのである。

山東省の地方都市が「串焼き」でブレーク
人口以上の観光客が押し寄せる事態に

 確かに山東省の淄博は今年、中国国内旅行客の最大の注目の的となった(https://diamond.jp/articles/-/321665)。きっかけは同市政府が、コロナ期の収束とともに市民に串焼きをおごったからだとも、現地の大学生が、客がそれぞれ自分の席で炭火で串を焼いて食べるという風習をネットで紹介したことで「火がついた」ともいわれる。あっという間に長らく工業都市として知られてきた淄博に全国の注目が集まり、人口470万のこの街に、今年3月だけで480万人が押し寄せた。

 その勢いはメーデー休暇にも続き、全国で淄博行きの鉄道チケットは発売とともに売り切れ、市政府は市内の海鮮市場を、串焼き店が軒を連ねる串焼き大センターに急いで仕立て上げ、同センターと駅の間に往復バスを走らせた。もちろん、その大騒ぎぶりに便乗する輩も少なくなく、ぼったくりも多数発生。またあまりの観光客の多さに地元からも悲鳴が上がり、大変な混乱状態になったことが数々の報道で伝えられた。

 だが、機械やタイル製品などの工業をなりわいにしてきたこの都市には観光資源といえるものがほとんどなく、その結果、観光ブームは夏休みに入るとすでに下火となったことが報告されている。加えて同市政府が発表した最新の経済統計によると、今年上半期にサービス業は業種ごとに10%を超える伸びを示したものの、市全体のGDPの伸びは5.3%と、山東省全体の6.2%と比べると大きな遅れをとっており、省内の都市別ランキングでも下から数えて3位にとどまった。

 これはとても中国的な傾向といえる。基数となる人口が多い上に、一つのネット情報で簡単に人が動く。いったんブームが起こると怒涛のように人が押し寄せて現地はてんやわんやになる。それを数字で換算するとものすごい効果のように思えるが、淄博の場合、注目されたのが、たかが(といってはなんだが)1本数元(約100円)程度の串焼きであり、それによる経済利益はブームが生んだ不都合に比べてそれほど大きなものではなかった。