コロナ前ならば、夕飯後にはデザート店やカフェ、バーに場所を移してさらにゆっくり真夜中までおしゃべりするのが常だった。だが、大手デザート店はコロナ中につぶれてしまい、行き慣れた店も店じまいし、付近に開いているバーもすぐには見つからない。絶賛活動タイムは真夜中という生活を送る友人の映画評論家も、「夜中に食事ができる店が激減した。そしてコスパが良い店は席の取り合いになるから、一歩出遅れるとまずい店で我慢するしかないんだ」と言いながら、目の前のぶっかけご飯を半分残してスプーンを置いた(まずい店だったのだ)。そして「24時間営業する店が減った。ずっと開けていてもコスパがよくないからだ」と不満げだった。

2019年のデモ+2020年からのコロナ禍で
“宵っ張りな香港人”が激減、消費観念も一変

 2019年のデモ、そしてその後続いた3年間の「外食禁止令」と呼ばれた措置は、文字通りの「宵っ張り」だった香港人の外食生活を変えた。コロナ中の夕飯はお持ち帰りか出前しか選択肢がなくなり、いくつになっても友人らと集まってガヤガヤおしゃべりしながら食べるのが大好きな香港人たちの消費概念が一変した。また、デモ以降、外で人が集まっているだけで警察に職務質問されるようにもなっていたし、さらに食事をしながら大きな声で政府や中国を含む「気に入らない奴ら」を批判したり、あざ笑ったりすること自体ができなくなった。つまり、人々の外食の楽しみが激減してしまったのだ。

 結果、人々は自宅で料理をする楽しさと気楽さ、そしてコスパの良さに気づいた。友人たちを自宅に招いて手料理を披露したり、その失敗談や心得を交換し合ったりする楽しさも知った。香港の家はどこもだいたい狭いけれど、家なら親しい友人と何をしゃべっても他人の目を気にする必要はない。テレビニュースを見ながら高官に向かって一緒に毒づけるし、なによりもコスパがいい。

 こうして香港人は街で消費しなくなった。仕事を終えるとさっさとスーパーに寄って帰宅するようになった。そうなると自然とレストランには人が寄り付かなくなる。筆者も滞在時は一人で夕飯を取ることもあったが、4人がけの席に1人、2人座って静かに食べているだけで、食べ終わるとみんなさっさと店を後にした。明らかにテーブル単価は低く、昔の賑やかさはすっかりウソのようだった。

 レストランにすら人が集まらないのだから、バーやナイトクラブは言わずもがなだろう。こうして、以前を知る者にとって香港の夜は驚くほど静かに、暗くなってしまった。