ナイトビジネスを盛り上げるはずが不発
しかも獅子舞は“葬式仕様”

 そんな「夜経済」(ナイトビジネス)を盛り上げようというのが、「ナイトバイブ香港」キャンペーンだった。「眠らない街」と言われた昔の夜のにぎやかさを取り戻し、消費を促し、その魅力を元手に海外からの旅行客を引きつけようというのがその趣旨である。

 だが、開会式とほぼ同時に発表された当面31本のキャンペーンプログラムは、海外観光客どころか香港市民にとっても「なんの新味もない」ものだった。例えば、そこに並んだプログラムの約4分の3は、コロナで2、3年間中止されていたが今年再開されることになった中秋の名月(今年は9月29日)イベント、さらに10月1日の国慶節(中国の建国記念日)の花火大会、ハロウィーンイベントといった定番のものばかり。実際にプログラムでは「営業時間を延長する」と名前を並べた大型ショッピングアーケードでも、キャンペーンにかかわらず入店店舗の多くがいつもと同じ時間に店を閉めているとメディアは伝えている。

 また「キャンペーンディスカウント」という触れ込みも、よく考えてみればこれから中秋、国慶節と続く秋の行楽シーズン、さらには来月末のハロウィーンと続くわけで、「いつもの商戦をリストアップしただけ」という声も流れている。公立の博物館や美術館も開館時間の延長を約束しているが、8時の時点ですでに客の姿がないのに、10時まで開けておく必要が本当にあるのかどうか。

 それよりも市民の「注目」を引いたのが、冒頭にご紹介した開幕式で踊ってみせた獅子が、祝い事の定番となっている赤ではなく白と黒を基本色にしたもので、それは「白事」、つまり弔事に使われるはずのものだったことだった。

 もちろん、ステージに現れた獅子にはそれなりに多少の工夫が施されていた。特別に全身にLEDライトが取り付けられ、ライトを落としたステージ上でそれが白だけではなく赤や黄色に光るようにはなっていたものの、薄暗いステージ上をくねくねと舞うLEDライトのそれはうら寂しく、香港の人たちの目には開会式という祝い事には映らなかった。

 とどめは「慶事は偶数、弔事は奇数」とされる風習にもかかわらず、その獅子が3頭しか現れなかったことだ。明らかに獅子舞グループが所有していた弔事用の白い獅子をそのまま転用したものという舞台裏が透けて見え、市民を完全にしらけさせるには十分だった。