これに対し、香港では「中国国内ではコロナによって失業率が上がっており、淄博のケースは失業者対策としては有効かもしれない。だが、香港では失業よりも経済全体の伸び悩みが大きな問題なのだ」と分析されている。しかし、中国政府の担当者に尻をたたかれた格好の香港政府高官は知らぬ顔をするわけにはいかなくなった。李家超・行政長官に至っては、10月に発表する予定の「施政報告」に「夜経済振興を盛り込む」と宣言した。

 そうやって、ちょうど目前にした秋の行楽シーズンから年末のクリスマス、そして来年の正月にかけての半年間を焦点に入れた「ナイトバイブ香港」を立ち上げたのだった。

不発の「ナイトバイブ香港」は
そもそも誰のためのキャンペーン?

 だがその「ナイトバイブ香港」が蓋を開けてみると、目新しいイベントも大してなく、開会式は盛り上げ不足と、香港市民のお祭り気分も高まらないままだ。さらには開会式翌日に、あろうことか隣町の深センが香港市民の訪問消費を歓迎するさまざまな優遇措置を発表。「香港市民の消費が深センに流れる」という不安の声も上がっている。

 李家超・香港行政長官は、「香港市民の深センとの住民往来は日常的なものであり、香港との競争関係にはない」と述べ、陳財政長官も今後「ナイトバイブ香港」のイベントをさらに多元的な、新味のあるものにしていくと宣言した。

 ただし、8月に香港から深セン入りした人の数は延べ600万人。中国から南下してくる人の数と差し引きすると、各週末だけで10万人多い香港人が深センに北上しているという統計数字も明らかになった。

 ……と、ここまで読んでお気付きだろうか。「ナイトバイブ香港」は冒頭に書いた通り、外国人観光客誘致を目的にしたはずのキャンペーンだった。だが、香港政府の目も、またそこで展開されるイベントやプログラムのあれこれも、ほとんどが香港住民をターゲットに語られている。この「外国人視点」の不在こそが、観光業不振の最大の政策的欠点であることに、香港政府はいつになったら気付くのだろう?