「お世話になっております。」で始まり「よろしくお願いいたします。」で終わるメールが、今日も日本中を飛び交っています。便利ですよね。わたしも「お」と「よ」でパソコンに辞書登録しています。……ただし。
国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、「紋切り型」の利点と弊害について紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)
紋切り型の限界
仕事上、メールをたくさん書く人の場合、同じ文を1日中繰り返し使っていないでしょうか。
たとえば、次のような文です。
・よろしくお願いいたします。
・今野と申します。
・ご連絡ありがとうございました。
繰り返し使えるだけあって、いずれも、相手に失礼にならないために、必要なものでしょう。
しかし、どんな相手なのか、どんな状況なのかを考えずに、こうした手垢の付いた文を使い回していると、反対に相手に失礼になることがあります。
(久しぶりにメールをする相手にたいして)
お世話になっております。今野です。
久しぶりにメールをしたわけですから、「お世話になっております」はおかしいように思います。
(久しぶりにメールをする相手にたいして)
ご無沙汰しております。今野です。
間が空いたことを「ご無沙汰しております」と明確に示すことで、相手に合わせたメールになるでしょう。
同じようなことは、たいしてお世話になっていない、初対面に近い間柄の人にたいする「お世話になっております」も起こりがちで、読み手に「とくにお世話した記憶はないけど……」と思わせてしまうでしょう。それが紋切り型の怖いところです。
メールの末尾につく「よろしくお願いいたします」にも注意が必要です。
「よろしくお願いいたします」はメールを終える決まり文句のようでありながら、「これでメールの文面は終わりです」という意味ではありません。依頼であることを結末で確認しており、そもそもお願いする内容がない場合に入れるのは不自然です。
出席者は最終的に25名となりました。
よろしくお願いいたします。
この例は何をよろしくお願いされているのかがわかりません。
もし確認のお願いであれば、そのことがわかるようにしたほうがよいでしょう。
出席者は最終的に25名となりましたので、ご報告いたします。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
「ご理解」の押しつけ
最近気になるのは、メールに限らず、不都合な内容を押しつけて、ご理解をもとめる姿勢です。
定期点検のため、全館停電となります。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
相手に迷惑をかけているわけですから、せめて言葉だけでもお詫びの姿勢を見せておかないと、クレームの対象となってしまいます。
定期点検のため、全館停電となります。
ご不便をおかけして申し訳ありませんが、ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。
もちろん、紋切り型がすべてダメだということはありませんが、メールの本文に述べられている内容を踏まえた言葉遣いにしておかないと、読み手には不誠実に見えてしまうことがあり、注意が必要です。
拙著『ていねいな文章大全』では、このほかにも、誠意に欠けると見えてしまう紋切り型や、コピペに見えてしまう文面の改善法を豊富に紹介しています。