想定されるのは、なんといっても、中国の軍事的攻勢が、2020年のガルワン衝突(編集部注:印中がせめぎあうガルワン渓谷で、パトロール中のインドの部隊を中国側が石やこん棒で突然襲撃。インド兵はつぎつぎと谷底に突き落とされ、20名が殺された)レベル以上に本格化し、それにインドが耐えられなくなる事態だろう。要するに、このままでは、中国に侵略されてしまう、と本気で恐れるようになった時だ。

 2050年までには、中国も、総合的な国力でインドからの猛追を受けている可能性が高い。だとすれば、中国としてはそれまでのうちに、インドをたたいてねじ伏せておきたいところだ。中国共産党指導部が、インドとの未解決の国境問題を武力で解決し、中国の秩序をインドに強制しようとしたとしても不思議ではない。

 かつてインドは、中国の脅威に対して、自国の軍事力を増強するとともに、ソ連との連携を強化することで対処しようとした。将来も、同じ手法は通じないだろうか?

 まずは、自前の軍事力増強がどこまで可能かについてだ。CEBR(編集部注:イギリスを本拠とするシンクタンク、「ビジネス経済研究センター」)の予測によると、少なくとも2030年代までは、中国とインドのGDPの差はほとんど縮まらない。そうであれば当然、軍事費の差も、それほど縮小しないだろう。

 それに、たとえそれ以降のGDPの伸びとともに、軍事費が増えたとしても、その成果が装備等を含めた軍事力として反映されるには時間を要する。つまり、中国の軍事力増強にインドだけで対抗しようとしたとしても、実際に軍事侵攻されるときまでに間に合う保証はない。もちろん、中国もそんなことはわかっているから、インドの準備が整うまでに行動を起こす可能性が高い。

ロシアを頼れず中国とは緊張関係
それでもインドはアメリカ陣営を避ける

 それでは、ソ連の後継国、ロシアというインドの伝統的パートナーとの関係は使えないのか?

 こちらのほうは、もっと心もとない。冷戦後のロシアの力は、かつて超大国としてアメリカと張り合ったソ連のものには遠く及ばない。

 もともと、インドにとってのロシアの重要性は、相対的に低下傾向にあった。2022年にプーチン大統領がはじめたウクライナとの戦争のなかで、インドがロシアを非難せず、原油やガスの輸入を増やしたのはたしかだが、中長期的には、インドにとってのロシアの価値の低下に拍車がかかることになるだろう。