“一獲千金狙い”で事業者が参入できる側面も

 東京都のPCR検査無料化事業におけるPCR検査には、1件につき最大1万1500円という補助金が付いた。

 仮に1日100人が検査に来れば115万円の売り上げだ。人件費は時給1500円×8時間×アルバイト3人だとして1日3万6000円、衛生検査所向けの唾液採取用キット、仮にこれをネット販売での平均的な価格である1個当たり300円とすると、100人分で3万円。検査センターの月賃料を100万円と多めに見積もって1日当たり3.3万円とすると、これらを差し引いた1日の粗利益はざっくり100万円となる。営業日が30日とした場合、ひと月で3000万円もの利益だ。

 2022年夏を振り返ってみよう。7月から9月まで、日本列島は第7波に襲われ、新規陽性者数は約148万人に上った。この夏、検査場は猫の手も借りたいほどの忙しさだった。Aさんはこう回想している。

「出勤と同時にすでに30人ほどの列ができていて、熱中症で倒れた人には救急車を呼ぶなど大混乱でした。第7波のピーク時は多い日で1日300人を超える人が来ました」

 2人体制の検査員で回していたAさんのPCR検査センターのその日の粗利は300万円、仮にこの事業者が10拠点を設けていれば全体で1日3000万円の粗利となる。

 港区でクリニックを開業する医師が「無料検査は当時必要な事業でしたが、うまみのある市場に“一獲千金狙い”で事業者が参入した側面は否めません」と話すように、「金もうけの道具」に利用されていた一面が存在する。

 現場では検査していないのに、検査をしたことにして水増し請求を行う事業者もあった。東京都の検査事業に参入した588事業者のうち、11業者の不正が明らかになり、虚偽の申請金額は183億円に上る(23年9月現在)。

 制度そのものが不正を生みやすい設計だったのではないかという指摘もある。最近まで某自治体の管理職を務めたF氏は次のように語っている。

「件数が増えるほど補助金が入る仕組みで、場所によっては客引きまがいの行為も見られました。検査そのものがDNAまで確認しないため、検査してなくても検査したことにでき、やろうと思えば、経営者の唾液でも件数にカウントできてしまうわけです。チェック機能も働かず、まともにやろうとすれば、現場のモラルに依存するしかなかったのです」

 本来ならば、公的な場所に検査場を設ければよかったが、当時は検査体制をいち早く確立する必要があり、事業を民間に請け負わせるしかなかった。東京新聞によれば、検査するのも民間の事業者、補助金申請を精査するのも委託を受けた広告会社だったという(『コロナ「無料検査」で267億円不正判明 チェックが甘く事業者の虚偽申請が横行』東京新聞)。

DXで悪用を排除、マイナンバーの導入も効果的

 今後どう改善に当たればいいのか。F氏はこう続ける。

「新型コロナウイルスワクチンの接種業務では自治体はいつ、どこで、何回打ったかなどをトレース(追跡)できる『ワクチン接種記録システム』を構築しましたが、PCR検査事業については出発点にトレースができるという仕組みがありませんでした。今後はトレーサビリティー(追跡できるシステム)を導入し、履歴を残すようにすれば、検査していない人が件数にカウントされることはなくなります。つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)するしかなく、マイナンバーの導入はその大きな前提になるのです」

 日本に滞在する多くの外国人が驚くのは「日本が想像以上の補助金大国」だということだ。

 近年は各種補助金を狙った外国人の暗躍も無視できなくなってきているが、もはや日本人とか外国人とかの問題ではない。貴重な財源の流失を防ぐためにもDXにより透明性を高め、容易に不正を働けるような制度から脱却することが焦眉の課題となっている。