ビズリーチの酒井哲也代表取締役社長に、HRMOS事業の黒字化について質問すると、記者に質問の意図を問い返すなど態度を硬化させた。ところが初回のインタビュー終了から約50分後、ビズリーチ側から「改めてきちんとお伝えしたい」と再度の逆オファーがあり、急きょ、2回で合計2時間に及ぶ異例のロングインタビューとなった。特集『岐路に立つビズリーチ 大解剖』(全5回)の#4では、HRMOS事業の課題と黒字化の見通し、その後の展望について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
伸び悩むHRMOSをどう黒字化する?
道筋を聞くと社長は態度を硬化
――9月に発表した2023年7月期決算によれば、ビズリーチ事業の売上高は前年比30%超で、今後3年間の定常時成長率は15~20%に収斂する見通しです。16年に始まった人事システム事業のHRMOS(ハーモス)は7年が経過し、初めて黒字化のタイミングを示しました。ビズリーチは今までとは違うステージにあるのではないでしょうか。
間違いなくその通りです。ビズリーチはお客さまのニーズに支えられながら、本当に大きな会社になりました。
また、コロナ禍で、企業は生き残りを懸けて自分たちで人材を見つけに行く、攻めの採用をするニーズが高まりました。ビズリーチにとってとんでもない特需でした。
HRMOSの元々の強みは、ビズリーチという採用ツールを持っていることにあります。加えてHRMOSにポジティブに作用していることの一つは市場の盛り上がりです。社外だけではなく、社内に適切な人材がいないか、というニーズが大きくなっています。
――HRMOS事業を振り返ると、HRMOSがサービスを開始したのは16年6月14日です。この時のリリースでは、3年後の導入企業数2000社以上を目標に掲げていました。それからちょうど3年後のリリースでは、累計の導入企業数が700社超、23年7月末時点ではHRMOS採用とHRMOSタレントマネジメントの利用中企業数は1546社です。当初の目標通りに進捗できなかったのは、どこに要因があったのでしょうか。
例えば採用管理システムを開始してから今に至るまで、ニーズの変化に合わせて、サービスの形態を変えています。
計画を遂行できずに変化してきた事実はあるかもしれませんが、仮説検証の方が大事だと思っているので、学んだことをどう生かすのかの方に重きを置いていますね。
――採用管理の場合、どこにニーズがあって、どこにニーズがなかったと分かったのでしょうか。
採用数が多い方が管理工数もかかるので、採用管理システムがより使われます。外部環境の変化で採用のボリュームは変わるので、そこが一番大きいです。
HRMOSは採用管理だけではなく、人材活用や人材管理もあります。一つのモジュール(構成要素のひとまとまり)としての採用管理を捉えてこなかったのが本音です。
――HRMOSシリーズの中での強弱や、軸足を置いているところはありますか。あるいは、シリーズ全体をひとまとまりとして見ていますか。
どんなデータやモジュールも、人材活用のプラットフォームに集約されます。人材活用にひも付く採用管理であり、勤怠であるので。コアな価値は、人材活用のプラットフォームに置いています。
――そのプラットフォームで、顧客にとってHRMOSシリーズを一緒に使うメリットはどこにありますか。勤怠や経費や労務はビズリーチから遠く、シナジーが利きにくいのではないでしょうか。(HRMOSの社員が自認するHRMOSの弱みについては、本特集#2『ビズリーチ、7年経っても芽が出ない人事システム事業が重荷に…「赤字続きの原因」を内部資料で検証』を参照)
人材活用に当たって、従業員データを一元的に管理することはとても大事です。それが一番分かりやすいのは、評価やパフォーマンスを介し、データを蓄積した上で、この人はこんな人であるというデータの蓄積だと思います。
現状では、これはまだできていないという前提で、例えばこの勤怠状況の人はこのような傾向がありますよ、といった「働く」にフォーカスしたデータは捨てる必要がないと思います。そのあたりのデータ連携を進める予定ですね。
――顧客にとっては、例えば労務だけはSmartHRを入れるという選択肢があるはずです。実際にHRMOS採用は、労務における競合サービスであるSmartHRと今年4月に連携しました。HRMOSをシリーズとして提供することと、競合サービスと連携して価値を高めること、どちらを重視するのでしょうか。
投資家が気になる「HRMOS黒字化」の道筋を記者が繰り返し尋ねると、酒井社長は質問の意図について逆質問をし、20秒あまり沈黙するなど態度を硬化。次ページでは、その様子を含めてHRMOS事業の行く末をお伝えする。