20秒沈黙するなどインタビュー前編では態度を硬化させた酒井哲也代表取締役社長。しかし、その終了後、ビズリーチ側から異例の追加オファーがあった。特集『岐路に立つビズリーチ 大解剖』(全5回)の#5では、急きょ翌日に実施することになった酒井社長インタビューを掲載。前日と同様、HRMOS事業の課題や対抗策について質問すると、少し違う答えが返ってきた。態度が軟化した酒井社長にHRMOS事業の黒字化の道筋や展望を聞いて返ってきたのは「(黒字化の優先順位は)あります」「精緻な青写真は持っていない」という拍子抜けするほど正直な答えだった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
態度硬化の翌日に「再インタビュー」の逆提案
HRMOS黒字化、競合対策をストレートに語る
――昨日と同じ質問ですが、HRMOS(ハーモス)の導入企業数は、当初掲げた目標のように進捗しませんでした(本特集#4を参照)。何がうまくいかなかったのでしょうか。
あくまで一例として捉えてほしいのですが、採用管理システムは変えるコスト(編集部注:ここでいうコストとは金額や費用ではなく、顧客側のデータを移行する手間や従業員へのコミュニケーションコストなどを指す)が大きいです。
例えば、お客さまが数年分のデータを持っているとします。すると、仮に私たちの機能が優れていたとしても、過去数年分のデータをリセットしてまでHRMOSにすぐに入るかどうか、というところです。
つまり、機能的価値を前提とした計画以上に、お客さまと対面していざ進めるとなるとうまくいかない部分がありました。もちろん上手くいったこともあります。その繰り返しです。
――リプレイス(新しいシステムへの置き換え)のコストが高いということは、この市場は先行が優位ですよね(HRMOSの競合は本特集#2を参照)。
そうですね。既に先行している(競合)サービスがある中で、後から入る私たちのようなサービスほど、価値を明確にしなければいけません。
――ダイレクトリクルーティングの草分けであるビズリーチ事業では、競合意識をあまり感じません。一方、HRMOS事業は現場でも競合をかなり分析しています。これは、HRMOSの市場への参入が後発だったからでしょうか。
HRMOSは最初にこの領域に入ったわけではないので、他(社)がお客さまに何を言って進めているのかなどの分析を通じて、お客さまにとってのベストを磨き込んでいます。でないと、(HRMOSは)期待がもらえるわけがありません。HRMOSの営業が(競合を)徹底的に調べているというのは間違いないです。
また、人事システムは、採用、採用管理、タレントマネジメント、労務、……と広義に捉えられます。
海外の事例も含めて、ある部分だけで勝負する企業もあれば、広く担う企業もあります。やはり範囲の定義と、強みの明確化がとても大事です。
――HRMOSの「範囲」が気になります。ビズリーチはHRMOS採用と親和性が強く、HRMOSタレントマネジメントも比較的近い領域です。そこから先(HRMOS勤怠、HRMOS経費、HRMOS人事給与)は、シナジーが利きにくくなるのではないでしょうか。
ビズリーチとの親和性が一番強いのは間違いなく採用管理(HRMOS採用)なので、採用管理をベースとしてタレントマネジメントで勝負するという、主は間違いなくこの二つです。
ただ、お客さまの期待が広がる中で、「薄くてもつながりがある」というラインをどこまで自社で抱えるかはとても大事です。
薄いつながりでいえば、HRMOS経費とHRMOS勤怠の領域は、データマネジメントという点で将来の武器になり得ると思って進めています。広げる範囲は、今展開しているところまでは何かしらの接点がつくれると思っています。
――データ以外では、HRMOS勤怠やHRMOS経費はどのように武器になるのでしょうか。
試行錯誤の中なので、つながり方については明確に話せることはないのが本音ですね。
ただ、HRMOSのある部分でパフォーマンスを出せば、HRMOSの認知度が上がり、別のサービスも期待されやすくなるはずです。人事のつながりにおいて、HRMOSのステータスを上げることも重要です。
――HRMOS事業は、9月の決算発表で2026年までの黒字化を示しました。昨日のインタビューでは、黒字化に向けて「(内部の)優先順位はそこまでない」とおっしゃっていました。ただ、例えば半年前のビジョナルの決算説明資料には「HRMOS事業は引き続きプロダクト開発を優先しながら」と書いてあります。黒字化を目指す上での優先順位もやはりあるのではないでしょうか。
次ページでは、HRMOS事業を黒字化する道筋や最終利益率の展望など、投資家が気になるテーマを引き続き質問。すると、前日から態度が軟化した酒井社長から返ってきたのは、「(黒字化の優先順位は)あります」「何年後にここまでという青写真は持っていません」という拍子抜けするほど正直な回答だった。さらには進行中の人事制度改革にも話題が及び、今後、ビズリーチ社員に求められるスキルも明かしてもらった。