重要なのは第一次所得収支の中身だ。22年度の第一次所得収支(35.6兆円)のうち、直接投資収益(23.4兆円)と証券投資収益(10.5兆円)の合計は約95%を占める。そして、直接投資収益のうち、再投資収益は約48%だ。海外で現地生産している企業であれば、ドルで稼いだこの収益の多くは円に変換して日本に戻さず、ドルで再投資するはずだ。また、証券投資収益の約90%を占める債券利子も同様だ。
ここで、経常収支を正確に把握するために、円の流出入を示すキャッシュフロー基準で二つの修正経常収支を定義してみよう。
一つは、通常の経常収支から再投資収益を除いたもので、これを「修正経常収支(定義1)」と呼ぶ。もう一つは、通常の経常収支から再投資収益と債券利子を除いたもので、これを「修正経常収支(定義2)」と呼ぶ。
それぞれ計算すると、22年度下期の経常収支は4.6兆円の黒字だが、定義1では0.9兆円の赤字、定義2では6兆円の赤字だ。
すなわち、現在の円安圧力は、「日米間の金利差+貿易取引や投資などでのドル超過需要」と表せる。貿易赤字だけでなく、対外直接投資における企業側の再投資戦略なども円安要因になっている可能性に留意するべきだ。
(法政大学 教授 小黒一正)