上司・管理職のバイブルとして世界で読まれる名著『新1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』。本の帯には、アップル、マイクロソフト、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ハーバード大学、米陸海空軍など、多くの企業や組織でこの本が用いられたことが記されている。マネジメントの本質を捉えることができ、それはビジネスのみならずサークルや部活、さらには家庭で親子が活用するにも有効だという。そんな本書のエッセンスとは?(文/上阪徹)

できる上司が「言いにくいこと」を部下に伝える際にやっていることPhoto: Adobe Stock

すぐれた上司は「言いにくいこと」を部下にどう指摘するか?

 世界で1500万部を超えるベストセラーになった上司・管理職のバイブル『新1分間マネジャー』。『新1分間マネジャー』は、マネジメントについて「1分間」というキーワードで極めてシンプルな解決方法を提示してくれるのが、その最大の特色だ。

 また、若者が特別なマネジャーに出会う「物語形式」で書かれているので、明快でわかりやすい。144ページの本なので、1時間ほどで読み進められてしまう1冊である。

 若者が出会ったのは、部下はこの人のために働くことを喜び、しかも上司と部下が協力して偉大な成果をあげている、という特別なマネジャーだった。

 若者はマネジャーのチームのメンバーから「部下を成長させる3つの秘訣」について聞く。そしてその後、マネジャーからも説明を受ける。3つの秘訣は、それぞれ1分間で行える極めてシンプルなものだが、実は心理学的な裏付けに基づいたものになっている。

 例えば、部下の間違った行動はやめさせないといけないが、一方ですぐれた人材は維持しなければならない。だからミスしたからと言って攻撃してはならない、とマネジャーは説く。

「目指すべきは部下に自信をつけさせることであって、自信を打ち砕くことではありません。人は自己概念を否定されると、自己や自分の行動を弁護しようとして、事実をねじ曲げることさえあります。防衛的になると人は学ばなくなるのです」(P.105)

 だから、ミスを指摘しなければならなくなったときには、同時にやらなければいけないことがある。

「行動と、人間としての価値は別々に扱わないといけません。ミスを指摘したあとに相手の人間性を肯定すれば、行動のほうに焦点があたって、個人攻撃に陥らずにすみます」(P.105)

部下に指摘しても「反抗されない」上手な伝え方

 マネジャーとして、ミスを指摘したりすることは、誰にとっても心地良いことではない。指摘する側もそうだが、指摘されるほうにとっては、なおさらである。だから時には、否定的な思いがマネジャーに向けられてしまうこともある。

「マネジャーがいなくなったとたん、ひどい仕打ちを受けたと同僚にこぼしたり、やり方を批判したりするのではなく、自分自身の行動に意識を向け、関心をもってもらわなければなりません。そうでなければ、部下は自分のミスにいっさい責任を取らず、マネジャーが悪役にされるだけです」(P.105)

 だから、最初は相手の行動に対して厳しく、あとで相手の人格に対して優しくするほうがうまくいく、とマネジャーは説く。そして、有名な大学バスケットボール部の監督から聞いた、チームを優勝させた方法を紹介する。

 そのチームで最も優秀な選手が、大事な試合でひどいプレーをしてしまった。なんとかしなければチームは負けそう。そこで、この最も優秀な選手を、監督はベンチに下げてしまった。

「この選手が最高のプレーをしないかぎり、試合には勝てないし、優勝を争うこともできません。そこで監督は、ベンチに下がった選手にどこが悪かったかを指摘しました。『きみは簡単なシュートを外した。リバウンドをとれなかった。ディフェンスでも手をぬいた。やる気が感じられず、私は腹立たしく思っている』と」(P.108)

 監督はまず、指摘をすることから始めたのだ。だが、それで終わることはなかった。

「そして少し間を置いたあと、『きみならもっとやれるはずだ。本来の力を出しきる気持ちの準備ができるまで、ベンチで控えていなさい』
 どれほど時間が経ったでしょうか。選手はようやく立ち上がり、監督のもとへ行って『気持ちの準備ができました』と告げたのです。
 監督は答えました。『それならコートに戻り、実力を見せてほしい』と」
(P.109)

 プレーを再開した選手は、よみがえった。そのがんばりを見てチームメイトも奮起、試合に勝利したのである。監督のコミュニケーションがチームを変えたのだ。

「人を操ろう」とする上司が結局うまくいかない理由

 物語の中で若者は最後に、マネジャーに核心的な質問をする。上司として、あるいはリーダーとして、これはドキリとさせられる問いかもしれない。「3つの秘訣」に効果があることはわかったが、その目的は部下を操って思い通り動かすことなのではないか、と。

 それに対して、マネジャーは最も本質的な答えを返す。

「大変よい質問です。操るとは、相手をだまして自分に都合よく動かすことです。人を操ろうとすれば、ろくな仕事はできず、自分に跳ね返ってきます。
 マネジャーがめざすべきは、部下自身が自分のマネジャーとなり、そのことに喜びを覚えるようにすることです。マネジャーがいなくても成功できるようにすることです」
(P.111)

 人を動かそうとしても、動くものではない。しかし、人が自ら動いてくれるようになるとしたら、どうだろうか。

 そして、人と結果がどれほど密接に関連しているか、若者は気づく。

「大切だからこそ厳しくしなければならないときもあります。お粗末なパフォーマンスに対して厳しいのであって、人に対してではありません。もうおわかりでしょうが、ミスが問題なのではありません。ミスから学ばないことが真の問題なのです」(P.112)

 若者は、なぜみんなが彼のもとで喜んで働くのかを理解した。部下たちはマネジャーの“ため”ではなく、マネジャーと“ともに”働いていたのだ。

「いいえ、“自分のために”働くのです。(中略)本心から他人のために働く人などいないでしょう。心の奥底では、みんな自分のために働きたいのです」(P.115)

 マネジャーは何をするべきか。マネジャーが正しいことをすれば、部下にどんなことが起きるのか。結果はどう変わるのか。秘訣がシンプルなものであるがゆえに、なんとも説得力がある1冊だ。

 最後に若者には、思わぬ事態が待ち受けている。さて、何が起こるのか、楽しみに読み進めてもらえたらと思う。

(本記事は『新1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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