書店に置いてある「文章術」の本を見ると、多くの本に「一文は短くせよ」と書いてあります。本当に、短い文こそベストなのでしょうか。国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、「そうではない」という話を紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)
長くても読みやすい文
「文は短く」というスローガンは、どの文章指南書にも書いてありますが、ほんとうに短く書かなければいけないのでしょうか。
長い文は文の構造が複雑になりやすく、読みにくくなりがちではあるのですが、「長い文」=「読みにくい文」ではありません。長い文でも読みにくい文と読みやすい文があるのです。
では、長くても読みやすい文というのは、どのような文なのでしょうか。
結論から申し上げると、長くても読みやすい文は二つの条件を備えています。
①文を先頭から一読して頭に入りやすい
②文全体のバランスが一目でわかりやすい
次の文を読んでください。
今年の全国最高となる39.7度を群馬県桐生市で記録した16日に続き、太平洋側の太平洋高気圧と日本海側のチベット高気圧のダブル高気圧の影響で、17日も厳しい暑さになりそうだ。
ぱっと見て頭に入りにくく、再読して初めて意味が取れるような文です。
それは、「今年の全国最高となる39.7度を」という細部の情報から語りはじめられているため、読んでいてどこに連れていかれるのかがわかりにくいことが影響していると思われます。
そこで、16日と17日のペアが明確になるような語り出しはどうでしょうか。
16日は、今年の全国最高となる39.7度を群馬県桐生市で記録したが、17日も、太平洋側の太平洋高気圧と日本海側のチベット高気圧のダブル高気圧の影響で、厳しい暑さになりそうだ。
ずいぶん読みやすくなった気がします。
「16日は」「17日も」という語り出しにより、文の内容の予測がしやすくなったためだと思われます。
「16日は」で始まることで、16日がどんな日であったか、内容を埋めるように予測しながら読めますし、「17日も」とあることで、17日も16日と同様に厳しい暑さであるという内容が来ると見当をつけながら読みすすめることができます。
このように、文を先頭から読んだときに予測しやすくなるように書くこと、「16日は」「17日も」のペアのように文全体のバランス、とくに前後の対称性が明確になるように書くと、長くても読みやすい文になります。
拙著『ていねいな文章大全』では、長くても読みやすく伝わりやすい文章を書くためのポイントについて、実際の長い文章を例に、多数紹介しています。