「部屋のしかけ」で認知症のお母さんに変化!

 次は、認知症でほとんど寝たきりのお母さまと同居している受講生の方から聞いた話です。

 彼女は、私の「空間デザイン心理学」講座で、「自然に行為をうながす」環境のしかけによって、その行動が無意識に起こりやすくなるという性質について学びました。

 アフォーダンス(知覚心理学者、J・J・ギブソン提唱)といいますが、たとえば道端にベンチがなければ通り過ぎるところを、ベンチがあることで座るかもしれません。このように、その行動の選択肢を提供する環境をつくるのです。

 そこで彼女は、自宅にある工夫をしました。お母さまはトイレには一人で行けます。ですからトイレから自分の部屋に戻る途中に目に入るように、窓に向かってテーブルと椅子を用意しました。テーブルの上にはスケッチブックと色鉛筆と花瓶に生けた花を置きました。

 すると、お母さまは、いつの間にかそこに座って、毎日ベランダにある花の絵を描くようになったのです。今まで絵を描くことなどなかったのに。これには主治医も驚いたそうです。それまで寝たきりだったお母さまが、何かに興味をもって行動してくれたのですから。

 このように、間取りや家具のレイアウト1つで、自然に人生をよりよくすることができるのです。もちろん、部屋のレイアウトを変えなくても、気持ちの持ち方を変えたり、会話をたくさんする努力をするとか、できることはあるでしょう。

 でも、うまくいく仕組みができていれば、それはもっと簡単。自然に、望む行動と気持ちが実現でき、望むような家族関係を促すことができている住まいこそが、よい住まいなのではないでしょうか。