しかし先述した通り、ジャニーズ事務所もNGリストを見せられたことを認めている。「氏名NGリスト」=「指名NGリスト」だと踏んだNHKの取材に対して、ジャニーズ事務所が釈明した時点で、それが事実であることがわかる。
なお、10月5日に、会見を運営した「FTIコンサルティング」もNGリストの作成を認めている。
そもそも「氏名を出すのがNG」という記者は通常いない。オンラインでも配信されている記者会見の動画を見れば、司会は記者の名前を呼んで当てているわけではなく、「〜色の服を着た女性」などと言って記者を当て、記者側が社名と名前を名乗っていることがわかる。
これはジャニーズ事務所の記者会見に限った話ではなく、多くの記者会見でもこのようなスタイルだ。記者は記事に名前を出さないことはあるが、会見上では質問をする前に名乗るのが通常のマナーである。
また、300人以上の記者が集まる会見を主催する側が事前に「氏名を呼んではいけない記者のリスト」を確認して備えておくことは考えづらいし、もしそんなことをしていたら、それこそ会見側と記者側で事前の打ち合わせやなれ合いがある証左となる。
人は信じたいものを見てしまう
信じたくなる情報ほど注意が必要
悲しいのは、続報が出ずとも少し考えれば間違った推測だとわかるこんな誤情報が、X上では瞬く間に拡散されてしまうことである。
マスコミが誤報を打ったという指摘にインパクトを感じてしまう人は多いようで、「氏名NGリスト」は「指名NGリスト」ではないと信じ込み、「公共放送できちんとした裏も取らずにあいまいな報道は許されない」「ミスリード」「偏向報道」「BPOに通報しておきます」「誤報訂正しろ」などと、NHKを強く糾弾する投稿も一夜にして大拡散された。
もちろんマスコミが誤報を打つことは実際にあるし、大手紙やテレビ局が報道する内容をうのみにするばかりではなく批判的な視点を持って読むことも必要だ。
しかし、少なくとも複数人がチェックするマスコミの内容と、ネットの匿名ユーザーの投稿の、どちらが「裏を取っている」可能性が高いかと言えば、それは前者だろう。
X上で「氏名NGリスト 誤報」などで検索すると、少なくない数のユーザーが、NHKが誤報を出したと信じ込んでいることがわかる。誤報ではないと指摘するユーザーもいるが、一度思い込んだユーザーは、どの時点で「自分の思い違いだった」と気づくのだろうか。
人は信じたい情報を信じてしまうし、そのバイアスからは誰も逃れられない。拡散して誰かに伝えたいと思うような情報ほど、精査が必要だろう。今回もまた、肝に銘じたい一件だった。