何気なく書いたメールの、たった2文字が、相手に思いがけない印象を与えてしまうことがあります。
国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、理由を示す「から」と「ので」の適切な使い分け方を紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)

主観的な「から」

理由の「から」「ので」、条件の「ば」「たら」は、因果関係を表すときの基本的な表現です。

それ以外にもいくつもの理由や条件の表現がありますが、本記事では、理由の「から」と「ので」について検討します。

「から」は、書き手の主張したいことが先にあり、その根拠を探してきて示す主観性の強い表現です。

理由が明確になり、書き手の気持ちを伝える力があります。文の終わりに、希望や期待が来やすいのが特徴です。

(例)せっかく沖縄に来たんだから、めいっぱい楽しもう。

配慮が必要なメールでは「から」より「ので」がよい理由ものすごくお腹が空いたから、大盛りのカツカレーを食べよう。

半面、読み手が強引な論理展開を押しつけられた印象を持ちやすいのが弱点です。

ですので、公的な文章では使用を抑えたほうがよさそうです。

【Before】
・少子化が加速しているから、大学・大学院まで学費の無償化を進めるべきである。

上の文では、「から」のかわりに「ため」や「以上」を使ったほうが、「から」の強引さが薄れ、落ち着きがよくなります。

【After】
・少子化が加速しているため、大学・大学院まで学費の無償化を進めるべきである。
・少子化が加速している以上、大学・大学院まで学費の無償化を進めるべきである。

穏やかな「ので」

「ので」は、書き手の主張を前面に出さず、因果関係を穏やかに示す形式で、根拠に基づいて強く主張するよりも、因果関係を客観的に示すのに向いています。

ただし、次のような「べきである」という主張の濃い文末との相性はよくありません。

【Before】
・少子化が加速しているので、大学・大学院まで学費の無償化を進めるべきである。

むしろ、次のような主張の薄い文末との相性がよくなります

【After】
・少子化が加速しているので、今働いている世代が将来年金を受給できる保証はない。

また、因果関係を前面に出す形式ではないので、読み手にたいする当たりが柔らかい印象があります。

その点で、対人配慮が要求されるメールに「ので」は向いています

次の例文の「から」の印象はどうでしょうか。

【Before】
・時間はあるから、お手伝いしましょうか。

因果関係の強い「から」を使うと、時間がなければお手伝いはしないという含意を読み手に与えてしまいます。

「ので」を使ったほうが読み手に好印象を与えられるでしょう。

【After】
・時間はあるので、お手伝いしましょうか。

拙著『ていねいな文章大全』では、このほか、「ため」「ところ」「結果」との使い分けでどのように読み手の印象が変化するかなど、適切な語彙選択の指針を多数紹介しています。