日本人の考えるものづくりと
世界のものづくりの違いは?

太田:よく日本の強みは「ものづくり」にあると言われますが、「ものづくり」と言うと、とかく日本人が日本で職人技を使ってやるというような先入観があります。しかし、日本企業でも発展している製造業の実態はかなり異なりますね。

 たとえば電子部品であれば、ヒロセ電機(コネクタ業界の世界的企業)もキーエンス(各種センサーの優良企業として有名)もほぼファブレスで、非常にスピーディーで、エンジニアリングとカスタマイズを価格に転嫁した戦略をとっています。

 モノ作り重視で、ファブレスは駄目だとする考え方には危うさがあります。たとえば最近、ハイテク自動車業界とICTの境界線がなくなってきています。台湾のラクスジェンというファブレス自動車メーカーは、差別化は空間づくりでやると決めて、HTCなどのIT企業と連携し、どうやって安全や快適な空間をつくるかに絞り込んでいます。デザインに特化し、車体を作る部分はバリューチェーンにないのです。

 一方、日本の完成車メーカーは「クルマはこうあるべし」という固定観念があって、そういう思い切った発想にはなかなか飛べません。台湾はIT企業が集積しているので、自動車に対する捉え方が日本とはまるで違うんです。

小林喜一郎(こばやし・きいちろう)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授。『リバース・イノベーション』日本語版の解説を執筆。

小林:それはBCGの「デコンストラクション」のコンセプトでいう、レイヤーマスターの例になりますね。IDEOなどもデザインに特化していますが、業界や技術が成熟化してくると、そのレイヤーのみで差別化する、ニッチのダントツ企業が出てくるのでしょうね。

 その例で興味深い点は、ITと自動車業界は、もともと事業のライフサイクルがまったく違うということです。それが合わさると、スピードの速い方に引きずられて、ファブレスにならざるを得ない部分があり、ビジネスモデルのイノベーションが起こるのだと思いますね。

太田:その意味では、ITの部分だけがレイヤーマスターとして広がるかもしれません。これからは新車だけではなく、駆動部分をEV(電気自動車)に変える、エンタテインメントを入れるなど改造の部分だけで変わっていくのかもしれません。いずれにせよ、自動車の保有資産としての価値は下がっているので、自動車メーカーを揺るがしかねないすごい変化が起きる可能性がある。そうした動きはウォッチしておかないといけませんね。