しかし、母親(あるいは母親以外の身近な人)が自らの悲しみの感情とうまく向き合えていれば、子どもの悲しみを自分の心の中に招き入れて、その感情を理解することができます。そうしたら、次のように言うことができるでしょう。「今日はヨナス君が遊んでくれなかったのね……。悲しい気持ちになるのはよくわかるわ」と。
そして、ヨナス君が遊んでくれなかった理由を子どもと一緒に考え、そのときにどうすれば良かったのかを子どもと話し合うことができるはずです。そうすれば子どもは、自分が覚えた感情は「悲しい」と表現されるものであり、悲しいときに見放されることはない、と学んでいきます。また、問題が起こっても解決策を見つけることができるということも覚えます。
このように、子どもの気持ちを汲んだ親の言動によって、子どもは自分の感情を類別し、それらに名前をつけていけるようになります。さらに、そうした親の言動は、子どもに対して「あなたが持った感情は基本的に正しい」ということを知らせることにもなるため、子どもはその感情を再び抱き、適切な方法で調整していけるようになるのです。
ですから、親の共感力は、教育能力を測るもっとも良い尺度になります。親の共感力という“媒体”を通して、私たちは良い刷り込み、あるいは悪い刷り込みを受けることになるのです。
問題解決には影子の発言が重要
自分の弱さを克服する道が開ける
「日常生活で今、起こっている問題を解決したい」という人は、解決すべき“本当の”問題を心の奥深いところで理解しなければなりません。そのためには、自らの影子に発言権を与えることが重要になってきます。なぜなら、それによって自分の弱み、つまり問題を起こす“トリガー(きっかけ)”を知ることができるからです。
ただ、多くの人は「自分の人格の弱い部分に触れるなんて、まっぴらごめん」と思っているはずです。きっと心の傷や不安を感じたくないのでしょう。そう思うのは、人間に本来備わっている生体防御メカニズムによる反応であり、まったく自然なことです。
あえて悲しみや不安、劣等感、羞恥心、あるいは絶望感を味わいたい人などいないはずです。私たちは皆、これらの感情をできるかぎり持たずに、幸せや喜び、愛といった快い感情だけを持ちたいと強く思っています。
それゆえ、心の傷を意識から排除してしまっている人も多くいます。別の言い方をすると、影子が口出しをしようものなら、影子を押しのけてしまうのです。