ハートを持った手写真はイメージです Photo:PIXTA

私たちの心の奥底には、子ども時代に刷り込まれた事柄、心理学において「内なる子ども」と呼ぶ人格部分がある。それが現在の自分に及ぼす影響は非常に大きいという。ドイツで最も著名な心理学者が、その仕組みを解説する。本稿は、シュテファニー・シュタール『「本当の自分」がわかる心理学』(大和書房)の一部を抜粋・編集したものです。

子ども時代の経験が今の自分に影響
怒りの感情に向き合わない子の運命

 人の心は、不安や痛み、悲しみ、怒り、さらには喜びや幸せ、愛情など、あらゆる感情が組み込まれた「内なる子ども」の人格と、合理的で理性的な思考力と理解力を備えた知力、つまり「頭脳」を象徴する「大人の自分」の人格で構成されています。

 そして、この「内なる子ども」を「傷ついている内なる子ども」と「陽気な内なる子ども」に細分化し、それぞれ「傷ついている内なる子ども」=「影子」、「陽気な内なる子ども」=「日向子」と呼ぶことにします。経験上、心の問題を解決するには、「影子」「日向子」「大人の自分」の3つの存在だけでも十分であることがわかっています。それでは本題に入りましょう。

 子どもは、自分の基本的欲求を親に気にしてもらえなかったり、わかってもらえなかったりすると、なんとか気にしてもらおう、わかってもらおうと懸命になります。そのために、まずは親に気に入られるようあらゆることをやってみるでしょう。

 ただ、愛情の薄い親、または子どもの感情や願望に共感できない親のもとで育った子どもは、そのような親とうまくやっていくには自分の欲求を抑えるしかないと思うようになります。

 親がとても厳しく、子どもに「言うことを聞いて、お行儀良くしていなさい」としょっちゅう言っていると、その子どもは親にいい子だと思われるように、あるいはせめて叱られないように、親が決めたルールに従おうと頑張るようになります。

 そのためには、親の考えに反する自分の願望や感情をすべて抑えなければなりません。そうすると、その子どもは、自分の感情にきちんと向き合うことを学べなくなります。

 とくに怒りの感情は、自己主張したり自分の領域を守ったりするために生涯、重要となってくる感情ですが、親の力が強く、子どもの自己主張がまったく通らなくなってしまうと、その子どもは自分の怒りの感情を抑えたほうがうまくいくと思うようになります。

 怒りの感情にきちんと向き合うことと、それに伴って適切な方法で自己主張することも学べなくなってしまうのです。こうして心の中で、「逆らってはいけない」「怒ってはダメだ」「周りの人に合わせなければいけない」「自分の意志を持ってはいけない」といったような信念をつくり上げていきます。