同じように、乳酸菌やビフィズス菌もまた、生まれたときから亡くなるときまで、ヒトの体のなかに住んでいます。そしてお互いに利用しあっています。乳酸菌やビフィズス菌の共生は、一般に赤ちゃんが分娩時の産道を通るときに、母体の乳酸菌などが赤ちゃんの体内に入るとされています。

 しかし、胎内環境に関する近年の調査によって、胎児のときからすでにこれらの菌があるらしいともいわれるようになりました。また、赤ちゃんの腸内フローラは一定ではなく、生まれたあとも変化していきます。

 たとえば、母乳を与えると母乳に含まれるミルクオリゴ糖を利用できるビフィズス菌が増殖していきます。ちなみに赤ちゃんの腸内フローラが一定化し、そのヒト特有の腸内フローラが確立するのは、3歳ごろといわれています。

 腸内細菌以外にも、私たちの体には様々な生き物が住みついています。たとえば、皮膚の上にも細菌が住んでいます。皮膚の常在細菌は数多く、シャーレの寒天培地に手の平を押し付けて培養すれば、いかに多くの細菌が皮膚に住んでいるかが分かるでしょう。

 有用な菌だけではありません。潜伏性のウイルスや病気を起こす病原菌など、様々なものが住みついています。一般的に、ヒトの皮膚には数百億個の常在菌が存在していて、その種類は20種に及ぶといわれます。代表的な皮膚の常在菌には、表皮ブドウ球菌やアクネ桿菌があります。

 これらの菌も、ヒトの健康と関わりを持っています。たとえば、表皮ブドウ球菌は、アトピー性皮膚炎の原因となる黄色ブドウ球菌を攻撃する抗菌ペプチドを作り、ヒトの皮膚を守ってくれます。また、アクネ桿菌は、普段は肌を弱酸性に保ち病原菌の侵入を防いでいます。

 このように、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌やアクネ桿菌はヒトの皮膚を保護しており、また皮膚に分泌された物質を餌にして生きています。つまり、皮膚常在菌と人間は「共生関係」になっているのです。

 いっぽう、アクネ菌はニキビの原因にもなります。人間の毛穴の奥には皮脂腺があり皮脂を分泌して皮膚を保護していますが、皮脂が過剰に分泌されると毛穴が詰まってしまいます。

 そうすると、嫌気性細菌であるアクネ菌は酸素の少なくなった皮脂のなかで大繁殖し、皮脂分解酵素であるリパーゼを使って皮脂を分解し炎症物質を作り出してしまいます。いっぽう、毛穴の細胞は、増殖したアクネ菌に対抗するために免疫反応を引き起こし、炎症性生理活性物質を産生します。これらの炎症物質がニキビの原因となるのです。