廃線になった路線に
想いを馳せる

 現在の珠洲の状況に寄り添う作品は他にもある。ドイツの有名アーティスト、トビアス・レーベルガー氏作の『Something Else is Possible(なにか他にできる)』は、渦を巻くように色を変えながら回転するオブジェが目を惹く。内部に据えられた双眼鏡を覗くと、作品名と同じ文字が見えてくる。

ど素人でも腑に落ちる現代アートの鑑賞法、ウォーホルを知らなくても大丈夫線路の延長線上にある鮮やかなオブジェ トビアス・レーベルガー作『Something Else is Possible(なにか他にできる)』/エレン・エスコベート作『Coatl』(1980年、メキシコ自治大学文化センターに恒久設置)を参照 Photo by Kichiro Okamura 写真提供:奥能登国際芸術祭委員会事務局


 この作品は、今は廃線となったJRのと鉄道能登線・旧蛸島駅跡近くにある。朽ち果てていく線路と駅舎、そしてかつて人々を毎日運んだ電車が放置されている風景がもの悲しい。

 次第に過疎化し、消滅の危機に瀕した珠州の町への“何か他にできる”というメッセージに、心を揺さぶられた。

 作品を訪れた人々の多くは、いまだ残る線路の上を歩き、駅舎跡のベンチに佇む。隣に座っていた老夫婦が「もう二度とやってこない電車を待つみたいだね」と話していたのが印象的だった。

 なお、この作品は展示条件が変わるが、芸術祭閉幕後でも鑑賞できる。

ど素人でも腑に落ちる現代アートの鑑賞法、ウォーホルを知らなくても大丈夫廃線になった線路を歩き、駅舎跡に向かう。線路の終わりに「Something Else is Possible」の文字が描かれたボードがある Photo by R.H.
ど素人でも腑に落ちる現代アートの鑑賞法、ウォーホルを知らなくても大丈夫かつてたくさんの人を運んだ電車が、草原の中に。ここだけ時が止まっているよう Photo by R.H.