文章を書いているとき、どこに読点「」を打つかで悩んだことはありませんか?
国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、読点の打ち方の基礎を紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)

読点は「文の意味」を決める

読点「、」の打つところを決めるのは難しい作業です。打つかどうか、判断に迷う場合が少なくないからです。

本記事では、読点を打つ基準について考えます。

読点を打つひとつの基準は、係り受けによって、文の意味が取りにくいときです。これを「係り受けのテン」と呼ぶことにしましょう。

次の文を読んでください。

【Before】
・課長はイライラして電話をかけてきた係長をどなりつけた。

この文は、イライラしているのが課長なのか、係長なのかによって読点「、」の打ち方が変わってきます。

イライラしているのが課長ならば、

【After ①】
・課長はイライラして、電話をかけてきた係長をどなりつけた。

となります。

読点「、」があることで、「課長はイライラして」がひとまとまりとして見えるとともに、「イライラして」が「電話をかけてきた係長を」を飛び越えて「どなりつけた」に係っていくことがわかります。

一方、イライラしているのが係長ならば、

【After ②】
・課長は、イライラして電話をかけてきた係長をどなりつけた。

となります。

「課長は」のあとに読点があることで、「課長は」が「イライラして」に係らずに、遠い文末の「どなりつけた」に係っていくことがわかります。

このように、「係り受けのテン」には、直後の要素を飛び越えて、その先、とくに遠い文末に係っていくことを明示する働きがあります。

たった1つの「、」の位置で文の意味はこれだけ変わる課長、イライラしないでください。

係る先が遠いときの読点

「係り受けのテン」が力を発揮するのは、上で見た例文のように、読点がないと二つの意味に解釈されてしまうとき、もう一つは係る要素と受ける要素が遠いときです。

次の例を見てください。

【Before】
・このWebページは野菜の切り方や魚の下処理の仕方から毎日食べたくなる家庭料理やパーティー用のおもてなし料理に至るまで、TPOに合った料理の基本を紹介する料理初心者に優しいページです。

読点が少なくて読みにくかったのではないでしょうか。

では、どこに読点を打ったらよいのでしょうか。

【After】
・このWebページは、野菜の切り方や魚の下処理の仕方から毎日食べたくなる家庭料理やパーティー用のおもてなし料理に至るまで、TPOに合った料理の基本を紹介する、料理初心者に優しいページです。

「このWebページは」のあとに読点「、」があることで係る先が迷子にならず、文末の「料理初心者に優しいページです」に係っていくことがわかります。

また、「TPOに合った料理の基本を紹介する」のあとの読点も、「料理初心者」ではなく「料理初心者に優しいページ」に係ることを明示しています。

読点がなくても複数の解釈が生じることはないでしょうが、あいだに別の要素が入ったり、係り受けの距離が遠い場合に読点「、」があったほうが、係る先が明確になって読みやすくなるでしょう。

このように、「係り受けのテン」は、係り受けの関係で複数の解釈が生じるとき、係り受けの関係にある要素同士が遠いときに、忘れずに打っておきたい読点「、」です。

拙著『ていねいな文章大全』では、このほか「文の構造をわかりやすくするための読点」など、細かい文法レベルから長文の構成まで、文章表現の指針を豊富に紹介しています。