大企業が活路を求める「アート思考」、コラボ依頼急増の東京藝大が感じる不安と期待東京藝大が一般向けに開講した公開授業 Photo by Ririko Ishizaki

経済の停滞、グローバル化の加速に伴う社会の多様化、著しいテクノロジーの進歩……。猛烈なスピードで変化し続け、情報やモノが溢れ返り、選ぶことの方が難しくなった社会では、いかに他との違いを作り出せるかがビジネスにおいて勝敗を分ける大きな要素になっている。このような状況の中で、昨今注目を集めているのが“アート”なのである。(取材・文/フリーライター&エディター 黒木歩)

アート×ビジネスに秘められた可能性
大企業からの問い合わせ多数

 日本経済がその勢いを失って久しい。止まらぬ少子化に伴う人口の減少は誰の目から見ても明らかであり、閉塞感の充満する状況を打開する有効な一手をどこの企業も探している。そういった厳しい状況の中で、多くの企業やビジネスパーソンがアートに活路を求めているという。

 アートや文化的活動を社会とつなぐ「キュレーション」を専門とする、東京藝術大学キュレーション教育研究センター副センター長の熊倉純子教授は、「経済がグローバル化する中での最後の差別化の手段として、アートに注目が集まっているのではないか」と語る。

「元々はアメリカからですが、グローバル化に行き詰まった企業の中でMBA(経営管理修士)の次はMFA(芸術修士)といった学位が注目され始めました。その背景には“非認知的思考をどのように養うか”といったテーマがあります」

 論理的思考での合意形成を図ると、誰が考えても同じような結論に辿り着いてしまう。経験がある人も多いのではないだろうか。

「発想の遊びや飛躍といった差異化のための思考がビジネスの現場でも強く求められていて、それを実践しているアーティストの思考法を取り入れようという動きにつながっているのだと思います」

 実際に、熊倉教授のいる東京藝大の元にも、小学館、東日本旅客鉄道、みずほフィナンシャルグループをはじめ名だたる大企業からたくさんの問い合わせがあるという。

「一般企業がアーティストを招聘するケースは増えていますし、本学にもさまざまな企業からいろいろな依頼があります。例えば、次の時代を担っていくような中堅の社員向けに感性教育のような授業をしてくれないかといったものや、社員を博士課程に入れてほしいというオファーをいただいたりもしています」

 変化の激しい時代の中で、どの企業も柔軟な思考ができる人材を求めていることの表れだろう。