アートと社会をつなぐ
「キュレーション」という概念
1992年から2002年まで、企業メセナ協議会に勤務した経験を持ち、現在、企業のメセナ活動から地域型アートプロジェクトなどの研究・開発に携わっている熊倉教授。
どのような形であれ、アートやアーティストが社会から求められることは「彼らの活躍の場が広がることであり、いいこと」と肯定的に捉えている。しかし、まだまだ「課題も多い」と言う。
「私の研究室から一般企業に入る藝大生も年々増えてきていますし、これらの取り組みがすべてうまくいっていないとは思わないのですが、多数の中にアーティスト一人が入ったからといって、何かがすぐに解決されるわけはありません」
特に大企業は小さな組織に比べて、数名が意識して動いたからといってすぐには変わらないし、アートというよくわからないものに手をつけることを、リスクと捉えてしまうところもある。
「それに、アーティストの表現の面白さを翻訳した経験もない人たちが、本当にアート的な思考を持った人たちのことを活かせるのかといった疑問は、正直言ってあります」
その解決策の一つが、アートと社会をつなぐ「キュレーション」という概念であり、そのあり方を模索するための場として23年度から本格的に始動した「キュレーション教育研究センター」である。
「キュレーション教育研究センターは初めて社会とアートのつなぎ手を育てることを全面的に打ち出し、キュレーションに取り組む教育と研究の場です。もちろん藝大生は自分がアーティストになることを目指している人がほとんどですが、藝大を出てアーティストとして成功する人は一握りです」
しかし、表現者ではなく企画側に回ってうまくやっている藝大の卒業生もたくさんいるという。
「自分がアーティストになれなくても、アートと社会をつなぐ役割があるということを広く伝えていくのも同センターの目指すところです」