藝大生が単位を取れる授業を
社会人にも公開

 そして23年6月、共同プロジェクトの第一弾として「キュレーション教育研究センター」の授業「展覧会演習設計I」を一般の人々も参加できる「公開授業」として開講。この授業では、藝大生とこのエリアで働く社会人が、展覧会やアートプロジェクトを都市空間で実施することを念頭にコンセプト作りや企画のプロセスを共に学んだ。

大企業が活路を求める「アート思考」、コラボ依頼急増の東京藝大が感じる不安と期待「展覧会設計演習I」では、有楽町エリアにおけるアーティストの表現活動場所をたどる街歩きを実施 Photo by Ririko Ishizaki

 全5回の授業には、企画職に公務員、コンサルタントやデザイナーなど、幅広い職種の社会人が参加した。

 受講を終えた社会人からは「仕事や生活するなかの意識からは外れた意⾒やアイデアを得られた」「企業として応⽤の可能性があることを感じた」といった意見が聞かれ、学生からも「社会⼈や他専攻の友⼈と話をすることで、かなり新鮮かつ具体的な論点を得ることができた」「藝⼤よりも幅広い年齢層や社会的ポジションの⽅が参加されることで、議論が“芸術好き”の学⽣の考えに偏らず、現実的かつビジネス的な側⾯を持った展覧会を構想する機会を持てた」といったポジティブなフィードバックが得られた。

 10月には同センターによる一般向け公開授業(現代美術キュレーション概論/全13回)もスタート。この公開授業には、当初予定していた100人を遥かに上回る人数の社会人から応募があった。社会人からのニーズや値段設定においてはYAUからもヒアリングを行った。

「社会人から見て藝大は日本最後の秘境なんて言われたりもしますが……」と、熊倉教授は笑いながら話す。

「藝大生にとっても社会は謎だらけなんです。そして社会と芸術をつなぐのがキュレーションですから、社会人と藝大生が一緒に学ぶ場というのはキュレーションセンター設立当初から考えていて、今回YAUさんのお力を借りて藝大始まって以来初めての公開授業という、藝大生が単位を取れる正規の授業を社会人にも開くことになりました。社会人の方々が藝大に在籍できるわけでも、何かの資格が得られるわけでもないのですが、おかげさまで好評です」