ビジネス街にアートを
有楽町を舞台にしたプロジェクト
もちろん、アートと社会のつなぎ手になれるのは、藝大生やアーティストを目指す人に限らない。
23年6月、東京藝大の新たな試みの1つとして、ビジネス街をアートの力で進化させるための実証実験「有楽町アートアーバニズム『YAU(ヤウ)』」との共同プロジェクトを開始した。
YAUの活動の中心を担うのは、このエリアの街づくりに長く携わってきた三菱地所や、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(通称・リガーレ)。
その中心でプロジェクトを運営する、三菱地所プロジェクト開発部有楽町街づくり推進室チーフ・リガーレ兼務の中森葉月さんは、「ビジネス街というバッググラウンドを持つ大丸有(大手町・丸の内・有楽町)というエリアが、さらに魅力的な街として発展していくには、アートの持つクリエイティビティが必要なのではないかと思っています」と語る。
「加えてこのエリアで活動する多くの企業が、多様化する社会の変化に合わせて変わっていかなければいけないという意識を持っているんです。YAUはそういったこのエリアのビジネスマンが共通して抱える課題の下、実証実験のプロジェクトとしてスタートしました」
22年2月〜5月のYAU第1期は、有楽町ビルの一室にアーティストとの共同スタジオを設置し、街とアートについて学びを深めるスクールやトークイベント、ワークショップなどを開催した。
これまであまりつながりのなかった、アーティストと街、このエリアで働くビジネスパーソンとの交流を通して一定の成果が得られたが、「アーティストがこの街に存在することがこのエリアや企業、ビジネスパーソンに対する変革につながったかというと、まだその段階には至っていない」と中森氏は言う。
「単にアーティストが街に来て活動を展開するだけだと、その時はいいのですが、街や企業、そしてビジネスパーソン一人一人の中にアート思考的なものを根付かせるところまではいっていないと感じています」
それをクリアするために必要なものがなんなのか、はっきりとした答えは見えてない。
「ひとつはアーティストと社会の中間に立って両者をつなぐような仕組みや人材なのではないか? そういったことがぼんやりと見えてきて、熊倉さんのいらっしゃるキュレーション教育研究センターと共同での取り組みがスタートしました」