日本のワインブームは
どうやって起こった?
堀さんが開店して数年後に、ワイン人口が大きく増える出来事があった。
「1995年に田崎眞也さんが、第8回世界最優秀ソムリエコンクールで日本人として初優勝してから、大きなワインブームがきたのです」
ウインドウズ95とともにやってきた田崎さん優勝とワインブーム。当時、「ワインを語るならまずボルドーを飲まねば」という風潮があった。
フランスのボルドー地区は古くからワインの一大生産地であり、革命前は貴族の領地であるブドウ畑から造られたワインを、オランダ商人が世界に売りさばいていた。革命後、畑や醸造所は、貴族の手を離れ商人やブルジョワへと所有者が移るのだが、今でも生産者はシャトー(城)と呼ばれている。
97年発売のベストセラー小説『失楽園』(渡辺淳一著)に登場したのも、ボルドーワインのシャトー・マルゴーだった。1855年のボルドーワイン格付け以来1級(~5級まで)を維持している5大シャトーのひとつである。そのような高級なワインは飲めなくても、タンニンの渋みがきいたボルドーのフルボディを飲んでいれば、なんとかさまになるという感じがあった。
堀さんも「店を始める前に、ボルドーをひと通り勉強しました。ワイン会に参加するなどして、味を覚えていきました」と言う。しかし堀さんのワイン人生に一大転機が訪れる。
「開店の翌年の5月。インポータ―主催の銀座のワイン会で、衝撃を受けました。生まれて初めてワインに感動したのです。グラスから広がる官能的な香りにクラッときました。ゆっくりと口に含む。ひと口ひと口が幸せでした」
フランス・ブルゴーニュの「クロ・サンドニ」だった。
「モレ・サンドニ村の特級ワインです。それ以来、メニューを少しずつブルゴーニュワインに変えていきました。エル・ボン・ビーノのお客さんは、うまいワインが飲みたいという人が多いので、スムーズにできました。ブルゴーニュワインをこの店で覚えファンになったというお客さんもたくさんいらっしゃいます」
ブルゴーニュワインは、シャトー(生産者)ではなく村や畑の名前で呼ばれる。有名なロマネコンティは、ヴォーヌ・ロマネ村の特級畑の名前である。
そして今、店は30周年を迎え、お客さんもずいぶん変わったという。