去っていくメンバーの
キャリアを応援できる企業風土に

 同社で「社内公募求人制度」が始まったのは約4年前。事業規模の拡大と人員増に伴い、人事異動システムが必要になったという。

「それまで当社には、一般企業で言うところの“会社主導の人事異動”は行われていませんでした。社員の声を反映して部署を異動したり、事業部長から社員のwillに合った部門への異動を提案したり、あるいは事業部同士で“引き抜き”が発生するケースもありました。しかし、今後も人員を増やして事業拡大を図るには、異動のシステム化は必須。レバレジーズらしい人事異動を改めて追求した結果、社内公募求人サイト『レバキャリ』が誕生しました」

 実際にレバキャリを利用した社員の満足度は高く、今も月に5人前後が他部署に採用され、異動しているという。

「異動した社員に話を聞くと『さまざまなポジションがあって驚いた』『異動して新しいやりがいを見つけられた』などのポジティブな声が多いですね。何より“異動したのに活躍できなかった”というパターンがほとんどありません。自分がやりたい仕事に携わり、一人ひとりが成果を出しているので、会社としても大きなメリットを感じています」

 サイトを運営する社長室は現在、社内の“キャリア相談室”として機能しつつある、と藤本氏は話す。そして今後は、会社側から社員におすすめの社内求人を紹介する施策も検討中だという。

「『レバキャリ』の社内認知度は高いのですが、ページを見ても『種類が豊富すぎて、どれが自分のwillに直結しているのか分からない』という声も多くあります。もしも、個人のキャリアアップにつながる事業部への異動や、社内求人を会社から紹介する仕組みがあれば、この状況を打開できるはず。もちろん強制ではありませんが、求人紹介のシステムが構築されれば、本人すらも思いつかなかったキャリアを切り開くきっかけになりますよね」

 企業側が社員の潜在的なキャリアの可能性を広げる。それが実現すれば「この会社ではやりたいことができない」という理由で離職する人が、さらに減るかもしれない。

 このように、企業として社内公募制のメリットが得られている一方で「各事業部からは少なからずネガティブな声もある」と、藤本氏。

レバレジーズで執行役員を務める藤本直也氏藤本直也氏
執行役員

大阪大学工学部卒業。2014年新卒入社。マーケティング部、新規事業の責任者、レバテックの経営企画を担当した後、25歳でレバレジーズ史上初の執行役員に就任。就任後は人事責任者、新規事業検討室長、経営企画室長を経て、現在はマーケティング部長を務める。レバレジーズの約50の事業を、事業戦略/プロダクト開発/広告/データ分析/CRMによって支える。2018年度から、中央大学で新規事業、マーケティングについての非常勤講師を務める。

「我々が解決すべき課題の一つとして、異動で去る社員の新たなキャリアを応援する風土づくりがあげられます。少数ながら『次期事業部門長候補の社員が異動してしまった』と嘆く人や『相談くらいしてほしかった』と憤る声もあります。送り出す側が背中を押す風土作りができれば、社内の人材流動化がさらに進むはずなので、改善の必要性を感じています」

 これらの課題を解決するには、管理職や事業責任者たちのマネジメント力を底上げしなければならないと、藤本氏は話す。

「レバレジーズでは、在籍3年ほどの社員がリーダーやマネージャーに抜擢されるので、事業管理者の80%が20代。早期抜擢が根付いている半面、通常業務をこなしつつ、メンバー一人ひとりのキャリア形成のケアも両立できるリーダー・マネージャーの数が圧倒的に足りていません。彼らの成長をサポートして、個人選択型HRMを高いレベルで運用していくのが今後の目標です」

 個人の“やりたいこと”に仕事をフィットさせていく、レバレジーズの人材戦略。人と企業の新たな関係性として、一つのモデルケースとなるかもしれない。