一方、メタ認知がうまく機能していない場合は、自分の仕事への取り組み姿勢に問題があっても、それに気付くことができず、不十分な理解のまま仕事を進めたり、不適切なやり方を続けたり、十分な成果が出せていないのに現状に満足してしまったりするため、仕事力の向上が期待できない。

 自分の現状の問題点に気付くことができないのだから、改善しようという動きがないままとなる。あるいは、周囲から評価されていないことを漠然と感じることはあっても、何がいけないのか、どこを改善する必要があるのかが分からないため、自分の仕事への取り組み方の問題点を改善するための対処行動を取ることができない。

「自分自身の理解度判断」と「実際の成績」の関係
なぜできない人は「自分はできている」と思いがちなのか

 そこで参考になるのが、学習活動に関するメタ認知の研究である。

 そうした研究領域では、本人自身の理解度判断と実際の試験の成績のズレについての研究が盛んに行われてきた。いわば、本人の予想と実際の成績のズレについての研究である。ズレが大きいということは、自分の理解度の現状をきちんと把握できていないことを意味する。研究によって分かったのは、実際に成績の良い人物はズレが小さく、成績の悪い人物は自分の理解度や成績を過大評価するという形のズレが大きいということだった。

 例えば、心理学者ハッカーたちが行った実験では、テスト成績をもとに五つのグループに分けて、本人のテスト成績の予想と実際のテスト成績とのズレを確かめている。

 その結果を見ると、テスト成績の最も悪かったグループだけが実際より高い得点を予想しており、他の四つのグループは、ほぼ実際の得点に近い成績を予想していた。この結果から、成績がとくに悪い人たちではメタ認知がうまく機能していないことが分かる。

 より詳しく見ていくと、成績が最も優秀なグループは平均して83%の成績を予想し、実際に平均して86%の成績を取っていたが、成績が最も悪いグループは平均して76%の成績を予想しながら、実際には平均して45%の成績しか取れていなかった。

 このように、とくに成績の悪い人たちが、自分の成績を著しく過大評価するという形のバイアスを示すのである。その後の試験でも同じ手続きを取ったところ、成績の最も悪いグループのみが大きなバイアスを示し続けた。