人事ジャーナリストの溝上憲文氏が、現役人事部長5人を直撃。氷河期世代を待ち受ける熾烈な出世レースと、ジョブ型雇用で「毎年十数人の管理職が降格して入れ替わる」シビアな現実を、人事部長たちが激白。特集『どの世代が損をしたか?氷河期部長&課長の憂鬱 出世・給料・役職定年』の#2では、一度シャッフルされ、入社時と同じように再び“厳選採用”される運命にある氷河期世代の管理職の実態に迫る。(人事ジャーナリスト 溝上憲文)
●サービス大手 人事部長Aさん(50代男性)
●食品大手 人事部長Bさん(50代男性)
●住宅大手 人事部長Cさん(50代男性)
●流通大手 人事部長Dさん(50代男性)
●IT大手 人事部長Eさん(50代男性)
氷河期世代の出世レースに異変
立ちはだかる「中途採用組」
管理職層がバブル期入社世代から就職氷河期世代に移行しつつある中で、出世レースに異変が起きている。採用数が少なかっただけに課長から部長にスムーズに昇進できるかと思いきや、二極化の現象も起きているという。
サービス大手の人事部長Aさんは「入社時はバブル期採用組の1割程度とまさに厳選採用だったが、実は景気が良くなった10年後、20年後に中途採用で埋めていった。氷河期入社組からすればハッと気付いたら、専門性が高くて優秀な中途社員が入り、下手をすると部長のポストを奪われる事態も起きている」と打ち明ける。
Aさんの会社だけではない。採用数が少なく歪な人口ピラミッドを補正するために、中途採用を増やしてきた企業も少なくない。
食品大手の人事部長Bさんは「新卒時に厳選採用された氷河期世代にはもちろん優秀な人材が多く、それなりに出世している人もいる。一方で時代に合わせて新部署を立ち上げる際に、必要な能力を持つ人材を中途採用で積極的に受け入れ、結果的に中途採用組が部長に就いた例もある」と語る。
40歳を過ぎてから課長になった
生え抜きの氷河期世代は苦境に
ライバルは同世代の中途採用組ということだが、部長になれるかどうかの分岐点は、若くして管理職になれたかどうかだとサービス大手のAさんは言う。
「厳選採用で入ったので元々優秀な人たちであることは間違いない。社内の人間関係も良好で、取引先と厚い信頼関係を築き、役員の覚えも良ければ、中途採用組に負けるはずがない。本当なら30代で課長、40代前半で部長になっていなければおかしいと個人的には思う。実際にバブル入社組を蹴落として経営企画部長になった人もいれば、男性を蹴落として役員になった女性もいる。
一方、40歳を過ぎてから課長になった生え抜きの氷河期世代は、ライバルが増えて部長レースの競争率が高くなり、不満を言っている人もいる」
勢いのある30代若手からの
追い上げも
近年は人事制度変革で管理職の昇進年齢が早まっており、中途入社組に加えて若手からも追い上げられている。
住宅大手の人事部長Cさんは「10年前から年に1人ぐらいだが、30歳前後で課長になる人が出ている。それまでの年次制限を外し、実力があれば“飛び級”もある制度に変えた結果だ。当然ながら40代の万年課長と肩を並べることになり、40代は勢いのある30代に出世レースで後れを取ることもあり得る」と明かす。部長になれず課長のままであれば、当然給与も上がらない。
「当社はメーカーなので給与水準は高くないが、係長クラスで年収600万円台、課長になると800万円台。部長になって初めて1000万円の大台に乗る。部長のボーナスは会社の業績連動の比率が高くなり、今は一戸建ての需要が高く業績好調なので、ボーナスを含めて2000万円近い年収をもらっている部長もいる」(住宅大手のCさん)
課長と係長の年収差は200万円程度と小さくはないが、課長の待遇が恵まれているわけではない。
次ページからは、課長の年収が係長より下回る逆転現象、「上がりのポジション」でなくなった部長職、そして昨今導入されているジョブ型人事制度により、毎年十数人の管理職が降格する“入れ替え戦”の様相、さらに凄まじいポスティング(社内公募)による管理職の入れ替えの実態に迫る。いずれも大手企業で実際にあったケースで、年収などの金額入りでお伝えする。