(3)感情的にならずに冷静に具体的に質問しよう

 質問なのだから冷静に聞き、冷静に答えを聞きたい。残念なことに、質疑応答の時間なのにケンカ腰で、糾弾口調で“質問”をする人がいる。

 ここでの“質問”は、「なぜ何もせず放置していたのか」「これからどう対処するのか」と、文章で書くといかにも質問形式に見えるものなのだが、実際には強烈な非難(というか野次)である。このように問い詰められると普通の人は、肝心の問題に関してかたくなに口を閉じ、自己正当化に走るため、真の問題が明らかになることは一切なく、建設的な方向で事態が改善されることもない。また会議の参加者も聞いていて嫌な気持ちになる。人間だから感情を完全にニュートラルにはできないが、できるだけ感情的になるのは避けて冷静に質疑を進めたい。

 感情的にならないためには、個別、具体的な事実のみを挙げながら質問を展開するという方法がある。「〇月〇日に○○からA社に○○の情報がもたらされたことは明らかになっています。では、この段階で会社が取り得る選択肢はどのようなものがあったのか。その中で、何もしないという選択肢を選んだ理由は何か」という具合に聞けばいいのだ。相手も回答すべきポイントが明確に理解でき、かつ、感情の応酬になることもなく、有用な回答が得られる。質問者が感情的になるのは往々にして事前の情報不足(質問する側の調査不足)に由来することが多い。

(4)できるだけ短く質問しよう。質問の背景事情の説明は後に

 セミナーや講演会などの質疑応答などでもよく見られる光景だが、長い長い前置きがあった上で、最後に質問のようなものがようやく発せられることがある。または1回の発話の中に何個も質問を入れる人がいる。

 答える方の立場から言うと、本当に困る。混乱して何をどう答えて良いかよくわからなくなるのだ。このような場合、回答者は、質問を整理して、「ただいまのご質問を整理させていただくと、○○について会社としてどのような対応を考えているかというご質問と、○○についてなぜ失敗したかという理由についてのご質問と、○○についてのご質問の3つということで、相違ありませんか」と聞き直してから回答するのがセオリーになっている。

 ただ、この場合でも、もともとの質問がクリアでないことも多く、トンチンカンな質疑応答になることが多い。よって、より良い質疑をするためにも、質問はできるだけ「短く」かつ、一度に質問する内容は多くても「2つ」までにしたい。

 また、質問をする際には、背景事情や事の経緯の説明が必要な場合もあるが、そのような場合も、最初に「これから○○についての見解についてお聞きします」と述べた上で、必要となる背景事情等を加え、最後に具体的でクリアな質問を投げかけるといった展開にしたい。

 今話されていることの最終目的地が想定できない中で、多様な情報を投げられると、ただでさえ緊張している回答者はむろん、その場で聞いている人も内容を消化できないからである。

(5)基礎的な知識は予習をしておこう

 素人や若手の人が、基礎的な用語について質問するのはありだ。例えば、研修の場面であれば、「ROICって何ですか?」と聞いてもまったく問題はない。しかしながら、真剣勝負の意思決定の会議などでは、知らない単語や概念は質問者の方が予習しておくべきだし、そのような初歩的な質疑に参加者全員の貴重な時間を費やすのは控えるべきである。

 例えば、元の会社からある事業が別の会社に移転されるといううわさが事前に広がっているとしよう。その形態は事業譲渡なのか別会社にした上での売却なのか、元の会社にあった知的財産権はどのように移転するつもりなのか、しないつもりなのかといった権利関係の基本事項について、何を聞くべきかしっかり予習しよう。そして回答者からそのような基本事項が説明されなければ、それについてこそ、突っ込んで聞かなければならないのである。

 あるいは、大学の問題について話を聞くのであれば、学生の修学に関連する事項についての最高責任者は学長であり、法人全体の運営を統括する理事長とは役割が違うことくらいは知っておかなくてはならない。それも知らずして学生が起こした事件について、「理事長出てこい!逃げるな」と声を荒らげるのは決してプロのやることではない。よって、質問をする前に最低でもその分野に詳しい人に基礎知識をレクチャーしてもらい、それを理解した上で質問に臨まなくてはならない。