「私たちの活動の原点は台北駅にあります」
毎週日曜日、台北駅には外国人労働者が集まる

 台湾で東南アジアからの労働者の新生活支援に注力する若者に出会った。彼の名は陳凱翔、NPO団体「One-Forty」(ワン・フォーティー)の創設者だ。9年前にこの団体が設立されたとき、台湾の外国人労働者は人口40人に1人だったことから名付けられ、20代から30代の若者30人が活動に携わっている。

NPO団体「One-Forty」の創設者、陳凱翔氏。東南アジアから台湾に来る外国人労働者の新生活を支援している。(筆者撮影)NPO団体「One-Forty」の創設者、陳凱翔氏。東南アジアから台湾に来る外国人労働者の新生活を支援している 写真提供:One-Forty

 One-Fortyのオフィスは台北中心部のオフィスビルにあり、広々と洗練された空間である。資金は、市民や企業からの寄付と企業へのコンサルティングによって賄われ、市民からは毎月500~1000台湾ドルの寄付を受けている。このことは台湾市民の慈善事業への意識の高さを示している。

「私たちの活動の原点は台北駅にあります」と陳さんは言う。台北駅の中央ロビーには、外国人労働者が週1回、日曜日に集まることで知られる。陳さんたちはこの駅の近くに、主にインドネシア出身者を対象に訓練学校を設立。中国語や介護技術、台湾の文化や生活習慣などの授業を行った。最近は病院と連携して、認知症ケアの授業も追加した。

台北駅の広場には、日曜日になるとたくさんの外国人労働者が集まる。(筆者撮影)台北駅の広場には、日曜日になるとたくさんの外国人労働者が集まる (筆者撮影)

 2017年からはYouTubeでオンライン配信を開始。台湾での生活や仕事の様子を伝える動画を300本以上制作し、チャンネル登録者は8万2000人に上る。動画の再生回数は多いもので1本50万回を超え、これから台湾に来る人がインドネシア国内からの視聴している例も多いという。コメントからは台湾での生活や仕事の悩みを把握できると陳さんは話す。

 現在、陳さんは台北博物館や台北101など観光関連企業の顧問として、外国人労働者が消費者として台湾の観光地を巡るためのコンサルティングを行っている。さらに、雇用主や市民を巻き込んだイベントを通じて、外国人労働者に対する理解を深める活動を行っている。

 多くのNPOは人権問題や労務トラブルの解決に注力してきたが、One-FortyはITツールを活用し、政府や企業と連携することで、新しい形のNPO活動を展開している。若者たちのビジネス感覚と高い志により、連続して新しい取り組みに挑戦している。

 筆者は台湾の介護施設を訪れ、多くの施設で外国人介護者が高齢者と共に過ごしている様子を目にした。日本でいうデイサービスやリハビリセンターのようなところへ、自宅から高齢者が外国人介護者に連れられてやってくる(地域によっては施設の送迎サービスもある)。高齢者がレクリエーションを楽しんでいる間は、外国人介護者同士でおしゃべりしたり、スマホを触っていたり、のびのびと自由な時間を過ごしている。台湾に来て3年目のインドネシア出身女性は、流暢な中国語で「家族の一員として受け入れられている」と語った。台湾の多くの介護施設では、中国語だけではなくさまざまな言語で注意事項が書かれており、絵で描かれた貼り紙も多い。台湾社会の柔軟性や寛容さが、外国人労働者を支えている様子がうかがえる。