友達をどうやって作る?
さて、それを知った上で、タツヤさんはこのクセを直すべきなのでしょうか。
タツヤさんは、人間関係のリセットが、自分が傷つくことから守るための自衛の手段だったと気づき、
「無理をしてクセを直そうとすると、余計にツラくならないかな?」
と思うようになりました。
そんな気持ちが生まれたことは、喜ばしいことでもあります。
自分が嫌だと思っていた部分に対して、肯定的に見られるような新しい視点に気づけたからです。
そこで、第三の道として、もっとラクに生きられる方法について考えるようにしました。
タツヤさんの悩みの本質は、「長く付き合える友達がほしい」ということでした。
そこで、リセットのクセそのものをなくすことはいったん保留にして、
「リセットしてしまった関係でも、また修復できる」
という、友達をつくる方向性のジンクスについて考えてもらいました。
タツヤさんが考えたジンクスは、
「お気に入りのブックカフェでランチをとってから、午後に知り合いに話しかける」
というものでした。
このジンクスには彼なりにロジックがあり、
「午前中はみんな忙しくてピリピリしているけど、午後であれば話しかけやすい」
「ブックカフェで新しい知識を入れたほうが、他人との話題が作れる」
「そこのマスターが話しやすい人で、話しかけるウォーミングアップになる」
と、納得しやすい理由を考えることができました。
そして、ジンクスを生活に取り入れてみました。
ランチの後に、実際に知り合いと会ってリラックスして話すことができ、次第に「会いたくない」という気持ちが和らいだそうです。
事前にブックカフェで人と話すためのイメトレをすることで、自分から話しかけるときのハードルが下がったとも言います。
そうしてジンクスを積み重ね、やがて人間関係を断ったつもりでいた元同僚にも話しかけることができたとき、自分の中で「大丈夫だ」という感覚が芽生えました。
その後、その関係性をリセットしたくなる気持ちが起こることはありませんでした。
「精神的なリストカット」とは?
さて、タツヤさんの場合、「人間関係リセット症候群」という名前にとらわれて、それを治そうとするのではなく、「人と気軽に話したい」という本質的な問題に向き合うことが大事でした。
新しい交友関係を作り、人間関係によって自分をリフレッシュさせる新しい手段を見つけることで、人と話をすることに楽しさを見出しました。
そうやってハラ落ちする体験によって、「理性的な自分」が感情をコントロールできたのです。
人間関係のリセットに限らず、自虐や自責は、いわば精神的なリストカットです。
その瞬間だけ、ラクになることもあるでしょう。
しかし、だからこそ中毒性もあります。
「やめられない」「止められない」「八方塞がりだ」と感じているとき、実は別のラクな道が見えていないときがあるのです。
その道を見つけるためには、「メンヘラなときがある」ということに気づき、現状を前向きにとらえてみることです。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。