コロナの感染拡大による在宅勤務や生活スタイルの変化により、20~30代の若い人たちの間で、つみたてNISA口座を開設する動きが急増した。そして、2024年からは新NISAがスタートする。本連載では、新NISAをきっかけに投資や資産形成を始めてみたいという人に向けて、失敗しないためのポイントをわかりやすく解説していく。新NISAはこの9本から選びなさい』(中野晴啓著、ダイヤモンド社)の内容を基に、一部を抜粋して公開する。「新NISAってなに?」というビギナーの人でも大丈夫。基本的なところからわかりやすく説明するので、ぜひ最後までお付き合いください。

「新NISA」が抱える、2つの課題とは?Photo: Adobe Stock

日本に在住している成人を対象に、
1人1口座までNISA口座を開設できる

 大幅に改善される新NISAですが、本書を書いている2023年10月時点においては、まだいくつかの課題が残されています。

 まず、「1人1口座」の問題です。

 現行のNISAでは、日本に在住している成人を対象にして、1人1口座までNISAの口座を金融機関に開設できることになっています。

 しかし、この1人1口座までしかNISAの口座を開設できない制度のため、これから証券会社を中心にして、激しい顧客争奪戦が行われる恐れがあります。現行の一般NISA、ならびにつみたてNISAの口座開設に出遅れた証券会社などが、2024年1月から装いも新たにスタートする新NISAでは出遅れないようにするため、顧客の取り込みに血道を上げることになるでしょう。こうした営業攻勢が、本当の意味で顧客本位になるとは思えません。

採算度を外視するような
低コストのインデックス型投資信託が乱造

 もうひとつは、対象商品です。

 たとえば現行のつみたてNISAでは、アクティブ型のスクリーニング基準がかなり厳格だったため、多くの投資信託会社はつみたてNISAに適格なアクティブ型の投資信託を持っておらず、結果的に新設が許されているインデックス型の投資信託に大きく傾斜しました。それも、採算度外視のような低コストのインデックス型投資信託を乱造したのです。

 確かに、低コストでの運用を望む投資家にとって、これは良いことかもしれません。しかし、あまりにローコストな投資信託の乱造は、逆に投資信託会社の経営体力を奪うことにもなりかねません。運用の継続性を考えた時、今のようなコスト競争は、決して望ましくないのです。

 それを考えると、低コストインデックス型投資信託の乱造につながるようなスクリーニング基準を、見直すべき時期に来ていると考えます。

 たとえばですが、インデックスファンドと非インデックスファンドの区別をなくして、新設ファンドの登録を認めず、すべてのファンドに5年以上の運用実績を課すなどです。

 インデックスファンド偏重を是正し、良質なアクティブ運用がインデックス運用と同じ土俵で運用力を競い合える環境をつくるべきだと思います。

中野 晴啓(なかの・はるひろ)
なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任、2023年6月に退任。
2023年9月1日なかのアセットマネジメントを設立。
全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にする活動とともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。公益社団法人経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員等を歴任。
著書に『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)他多数。