ウクライナに暮らす人たちは、ロシアによる侵略戦争に何を思い、どのように暮らしているのか。ウクライナの俳句愛好者が詠んだ作品は、俳人ならではの視点と感性に満ちあふれていた。報道では決して伝わらない、戦争のリアルを報告する。本稿は、馬場朝子『俳句が伝える戦時下のウクライナ ウクライナの市民、7人へのインタビュー』(現代書館)の一部を抜粋・編集したものです。
俳句を通して伝わる
戦禍を生きる人たちの思い
2022年2月24日にはじまったウクライナでの戦争は、すでに1年以上続いている。私はソ連時代にモスクワの大学に6年間留学し、帰国後はNHKでディレクターとしてソ連、ロシアのドキュメンタリーを制作してきた。そして、いまもロシア、ウクライナ双方に友人や知人がいる。
戦争の中で日々を生きることを強いられている人たちの思いを、どうにかして伝えたい。彼らの心の内を少しでも共有できないかと考え、俳句という表現にたどり着いた。心の表現としての俳句を通して、いま戦禍を生きる人たちの思いをそのまま伝えたいと思った。
意外かもしれないが、実はソ連時代から俳句は親しまれてきた。五、七、五の世界最短の定型詩は、1935年、ソ連時代に『おくのほそ道』が翻訳され、学校で俳句が教えられることもあった。
ソ連崩壊後はインターネットでも交流が進み、また、さまざまな俳句サークルも誕生し、俳句ブームが起きた。モスクワでは日本の国際交流基金主催の国際ロシア語俳句コンクールも開催され、本格的な俳人たちも育ってきた。日本で開かれる国際俳句コンクールにもロシアやウクライナの俳人たちが多く参加し入賞している。
戦争の日々を詠んだ俳句を送ってほしいという依頼に応えて、ロシア、ウクライナ両国から寄せられた俳句には、戦時下を生きる人にしか詠めない戦争のリアルと深い悲しみが綴られていた。
この句を詠んだ方々の話を聞いてみたい、句にこめられた思いを詳しく紹介したいと、NHK、ETV特集で番組の制作を開始、現地を訪れることは困難な状況の中、オンラインでインタビューしたい旨を俳人の皆さんに伝えた。
戦争は激しい攻防が続く前線や、投下される爆弾の元だけで起きているのではない。日々のニュースで戦争の情勢を見ていたはずなのに、私は戦争の本当の姿をまったくわかっていなかったということを、彼らの俳句を読んで思い知らされた。
生活のすべてが、戦争というものに深く侵食されていく。ウクライナの俳人たちの俳句は、戦争が人間と地球を破壊していく過程を、生活の隅々を描写することで詳細に伝えている。