しかし、マイクロソフト以外のOpenAIの投資家・関係者にとって「親の総取り」は悲劇以外の何物でもなく、アルトマン自身にとっても一従業員におさまるより、独立したOpenAIのトップの方が好ましく見えただろう。これらの要因が、アルトマンの電撃的な復帰を後押しした。

 最終的に、アルトマンらが復帰し、理事会は放逐された。新理事会はスタートアップ取締役会によくある人員構成になった。例えば、新たな理事に就任したブレッド・テイラーはセールスフォースの元共同CEOで、彼はTwitter元取締役でイーロン・マスクの旧Twitter買収時の交渉相手でもあった。マスクが途中で取引を反故(ほご)にしようとあらゆる策略を仕掛けた際に、マスクの弱みを追及し、買収を完了させた人物だ。

OpenAIの特殊な組織構造~非営利が営利を支配する

 今回の騒動で注目を浴びたのは、理事会の一存でCEO(アルトマン)を追い出すことができたことだ。これまでOpenAIに100億ドルを投資してきたマイクロソフトでさえも、事後的に通知されただけだったという。通常のベンチャー企業に用いられる株式会社や合同会社では考えづらいことである。

 OpenAIの組織構造は複雑で、営利部門と非営利部門が絡み合っている。元々非営利AI研究所だったOpenAIは、組織の上段にある非営利部門の理事会がコントロールしている。非営利部門と従業員、他のベンチャーキャピタル投資家や慈善団体が下段の営利部門51%の株を保持し、支配権を維持している。マイクロソフトは、OpenAIの営利企業部分の49%の株を保有しているが、OpenAIの理事会には関与せず、非営利部門の株も持っていない。