美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

地獄の自画像 エドヴァルド・ムンク『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

「叫び」だけじゃない! ムンクの絵の面白さとは?

──いや~それにしても意外でした!「叫び」の謎もそうですけど、ムンクが大変な少年時代を送っていたとかも…。画家を知ると見え方って変わりますね。

ほんとにそうですよね。

ムンクは19世紀から20世紀へと世紀をまたいで活躍した、割と最近の画家です。

昔のようにきれいに物事をとらえて描くだけで評価される時代ではなかったんですよね。

「いかに自分にしか描けない絵を描くか」という時代背景がムンクの生い立ちとも重なり、唯一無二の作品を生み出す下地になったんでしょう。

だからね、ムンクは自画像も面白いんですよ?

──自画像…って、もしかしてこれですか? てっきり赤鬼かなんかの絵かと思っていました。

はは、金棒持っていたらそれで決まりなんですけどね(笑)。

この絵はその名も、「地獄の自画像」です!

──何ぃ~!? ちょっと興味しか湧かないんですけど!(笑)

ムンクは何を描いても内面が反映されるんですよ(笑)。

この絵はムンクがとある女性とお付き合いをしていて、別れた後に描かれた作品だと言われています。

──なんと!「叫び」とかからするとムンクってあんまり色恋のイメージないですけど…。

いえいえ、ムンクは恋愛自体もよくモチーフにして絵を描いたんですよ?

で、この恋愛に関してですが、お相手はノルウェーの有名なワイン商の娘、トゥラ。

ムンクは、新進気鋭の画家として注目を集めている頃でした。

二人は交際を始めるんですが、トゥラは大金持ちの娘だったこともあってとても我儘。

ムンクはムンクで個性的な人ですから、二人の関係は嵐と凪の繰り返しのよう。

──へえ~、確かに個性がぶつかりそうな感じはしますね。すぐ別れちゃったんですか?

いえ、それがなんだかんだで長続きするんです。ただ、トゥラはムンクと結婚したかったんですが、ムンクには結婚する気がなかったようです。

そこでしびれを切らしたトゥラが、ある日ムンクを呼び出して二人は言い合いに。

全く態度を変えようとしないムンクに対し、トゥラが隠し持っていたピストルを持ち出して…。

──ピ、ピストル!

そのまま揉め合いになってそのピストルは暴発! ムンクは左手の中指の関節を撃ち抜かれたんです!!

──オーマイガーッ!!!!!

で、その直後に描いたのがこの地獄の自画像です。

──怒ってる…。めっっっちゃ怒ってる。

そう思うと面白いでしょ(笑)。あ、笑っちゃいけないんだけど。

──想像のはるか上をいく壮絶さでした(汗)。でも無事に別れられてよかったのかもしれませんね。

そうですね。そして別れた後に描いたトゥラの肖像画がこちらにある下の絵です。

罪 エドヴァルド・ムンク『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

──めっちゃ怖い顔してますやん(笑)。ムンク面白すぎるでしょ。

でしょ?(笑)

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)