パスポートと地球写真はイメージです Photo:PIXTA

警視庁公安部は11月24日、東京都豊島区の池袋パスポートセンターで個人情報が書かれた付箋紙を盗んだとして、中国籍の女を書類送検した。本事件が示す“危険性の本質”とスパイ防止法の有効性について、官民で多くのスパイ事案捜査・調査に従事したカウンターインテリジェンスの専門家が解説する。(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村 悠)

都パスポートセンターで
大量の個人情報を持ち出し

 都や警視庁によれば、被疑者は2020年5月~23年3月の間、パスポートセンターの業務を受託するエースシステム(東京都足立区)の契約社員として窓口で勤務。旅券申請者が窓口で提出した戸籍謄本や住民票をコピーしたほか、紙に書き写したり、窓口でのやりとりを録音したりするなどして、1920人分の個人情報を持ち出していたとみられる。

 これまでの報道では、本事件において“第三者への流出”や“国家的背景”は確認されていないとされ、被疑者は動機について「業務を勉強するためだった」と供述しているというが、甚だ疑問だ。

 そもそも、1920人分という数字を見ても私的利用(業務を勉強するため)とは思えない。

 また、外部への流出に関し、被疑者が個人情報をメールで送信するなどのログが残る手法ではなく、第三者に直接会って個人情報が記載された紙やパスポートのコピーを手渡すなどアナログな手法を取っていれば、捜査機関はそれを“現認”しない限りは「確認できない」と言うほかない。“現認”のためには、捜査機関が被疑者の行動を常に把握しなければならない。

 国家的背景の有無についても、被疑者の交友関係を洗い出し、上記のような接触において情報機関関係者やその周辺との接点を確認、もしくは、メール・電話などの通信手段における指揮命令の証跡を確認しなければ、立証は難しい。

 本事件は都が警視庁に相談をしたことで捜査機関側に認知されたわけだが、そもそも都が本件を認識したのは被疑者の実行後である可能性が高い。捜査機関としては認知前の被疑者の行動は把握しようがないため、「確認できない」とするしかないのだろう。