事件が示した
危険性の本質とは

 まず、海外国籍の人物が個人情報を扱う業務に従事することへの懸念だ。

 個人情報の漏洩が日本の安全保障上の問題であることは指摘するまでもない。例えば、本件被疑者のように中国国籍の人物であれば、中国内外の中国人や企業に対し、安全保障や治安維持のために中国政府の情報収集活動に協力することを義務付けている“国家情報法”が存在するのは知られたところだ。

 さらに、仮に特定国家の関与が認められた場合、本件で漏洩した個人情報と他の情報活動で収集した断片的な個人情報との突合で整合性を高め、日本人のデータベースが完成されていくほか、要人の個人情報を把握されることが各種諜報活動の礎となってしまう。

 しかし、なによりも本件で露呈した最大の危険性は行政による認識の甘さだ。

 東京都という日本の首都が、「個人情報を扱う業務自体が安全保障に関わり得る」という認識を一切持っていなかったのだ。

 通常出入り業者や委託先について管理を行っているのは当然であり、防衛省や警視庁では極めて厳しい管理がなされている。一方で、東京都の委託先管理は非常に甘かったと言わざるを得ない。

 まさに、本事件は氷山の一角であり、全国に同様のケースが潜在しているだろう。

 本事件を受け、外務省は即座に、パスポート発給窓口の担当者を“日本国籍を持つ人物”に限定するよう各都道府県に通知を出している。

 しかし、本通知にはまだ「抜け道」がある。

 例えば日本における中国や北朝鮮による諜報活動では、帰化した人物や彼らの企業による工作活動の支援も多く確認されている。“日本国籍を持つ人物”に限定したところで防げないのが現状だ。

 とはいえ、外務省の速やかな対応は、一定の評価をすべきであろう。