及川:やっぱり常にアンテナが立っているから、転がり込んできたチャンスをがっちりつかめたわけですね。

十河:おかげで2件目のM&Aからは、彼と二人三脚で進めてくることができました。彼は都度、『何がリスクになるか』『当社として譲れない条件は何か』といったことを冷静に提示してくれます。ビジネス面の勘も鋭いので、私との議論もスムーズです。ファイナンス面の要所は押さえつつ、絶妙なバランス感覚で進めてくれています。

及川:AnyMindさんの場合、そもそも近い領域で、高確度でシナジーの見込めるM&Aしているとは思いますが、一般にはそうしたケースでも、期待通りの成果が出ない事例は多々あります。AnyMindさんがPMIで成功してきた理由は何でしょう。

十河:M&A直後、つまりスタートダッシュの段階で目に見える成果をつくれるか、ここがカギになると思っています。現場が盛り上がり、「新体制になってよかった。今後もどんどん伸ばしていける」というムードができれば、あとはだいたい回ります。ですから、PMIの最優先事項は、両社の関係部門がいいスタートダッシュを切れる体制を整えること。この点は先方経営陣とも、事前に認識をすり合わせています。

早い段階で先方の業績を伸ばすことは、メンバーのリテンションの観点でも一番効果があります。とはいえ、それが100%有効かというとそうではありません。中にはM&Aに伴って会社の仕組みや雰囲気、オフィスなどが変わること自体にメンバーが違和感を持ってしまうケースもあります。それはやはり、どの会社でも多少はありますね。

当社の場合はこれまで、先方の創業者やキーマン、また社員に関しても、特に事業の成長と自己の成長に向けたコミットの強いメンバーたちにとって、エキサイティングな環境づくりにフォーカスしてきました。それが結果的に、グループ全体にとっての最適解でもあったと思っています。

及川:スタートアップにとって、事業成長のタイミングでキーマンのモチベーションが高まり、いいサイクルが回っていくことはよくありますね。その意味で、最大級の起爆剤になり得るのがM&Aなのかもしれないとお話を伺って感じました。

M&A先企業の創業者に対するインセンティブ設計に関しては、どんな工夫をされていますか。

十河:意識してきたのは、創業者の方にとって、M&A時点よりもジョイン後に、よりリターンを得られるかたちをつくることです。ですから、M&Aの対価を100%現金にすることはあまりなく、現金と株式交換を半々にしたりするケースが多かったですね。またAnyMindでの役割と組み合わせて株式報酬についても活用しています。