今年5月、サウジアラビアのレーティング組織はFF16の発売中止を発表している。「パブリッシャーが必要な変更を行うことを望まないため」と説明があったが、こういった表現に関わることは容易に想像できる。同国ではこれまでも同性愛表現のある映画の放映が禁止になっている。

二度と出会えるかわからない、スクウェア・エニックス渾身の超大作

FF16の開発スタッフは、ゲーム好きならばその名を二度見してしまうような面々が揃っている。

まずプロデューサーはFF14を大成功させた吉田直樹氏で、ディレクターもFF14でデザインセクションマネージャーを担当した高井浩氏。デザイナーの権代光俊氏はFF11のプランナーで、鈴木良太氏は以前のカプコン在籍時代に『戦国BASARA』や『デビルメイクライ』といった人気アクションゲームシリーズなどに関わった。シナリオはFF14でメインシナリオライターを務めた前廣和豊氏で、音楽もFF14の祖堅正慶氏。キャラクターデザインもFF14の髙橋和哉氏。

このようにFF14と同じ第三開発事業本部が開発しているためFF14スタッフが多数参加しているが、FF16ではこれに加えて第一開発事業本部の『キングダムハーツ』開発チームや、『ニーア オートマタ』を手掛けたゲーム開発会社のプラチナゲームズまでも、FF16の開発に参加。さらにPS5の開発者がSIEから技術サポートで協力したことも報じられている。つまりFF16はスクウェア・エニックスにできる、「ゲーム業界のアベンジャーズ」とも言うべき精鋭チームが作り上げた作品であり、これ以上のクオリティを持つゲームには、残りの人生で何度出会えるかわからない。

PS5の所有者は「PS5の性能をフルに引き出してくれる」というソフトは発売日直後に飛びつくため、発売後1週間で300万本売れたという数字には納得がいく。しかし、「現在はPS5を持っておらず、FF16のためにPS5ごと買う」というユーザーが今後どこまで増えるのかはSNSなどでの反響次第だ。それを期待してか、スクエニは公開に前向きな姿勢の動画配信ガイドラインを発表。異例の対応にゲームファンの話題を集めた。ストーリー重視のゲームであれば、「YouTubeで実況を観たから満足した」と、購入を控えられてしまうリスクもある。だがそれ踏まえた上で、FF16は「世の中に認知されること」を重視したのだろう。

販売本数で見れば、間もなく発売から2週間となり、通常のゲームタイトルであれば“初速”が一段落するタイミング。7月以降の売り上げはいったん落ち込み、次の盛り上がりは年末商戦における「PS5本体とのセット購入」という動きになるだろう。だが莫大な開発費用を投じたスクウェア・エニックスの予測では、2023年の年末商戦に売り伸ばしができたとしても、それでも黒字化できないという見込みだ。それほどまでのリスクを負ってでも、世に送り出した渾身(こんしん)の超大作なのである。