世界全体を襲った、新型コロナウイルスの感染拡大──予期せず発生した“HARD THINGS(ハードシングス)”をHotspringはいかにして乗り切ったのか。この1年の歩みを有川氏に聞いた。
「自分が本当に欲しい」と思えるサービスをつくりたい
Hotspringは2017年5月の創業。もともと、有川氏は女性向けファッションのキュレーションメディア「MERY(メリー)」を運営するペロリの創業メンバーとして、主にデザインやSEO(検索エンジン最適化)の領域を担当していた人物だ。
DeNAがペロリを買収し、有川氏も新たな挑戦のために離職を決意した2016年12月、DeNAが運営する医療・ヘルスケア情報のキュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」の制作体制や情報の信憑性が問題視された、いわゆる「WELQ騒動」が起こった。この騒動を受けてMERYもサービスをクローズするに到る。クローズまでの対応をしてペロリを離れた有川氏は、以前から心に抱いていた「自分で事業をやりたい」という思いを形にすることを決める。
「MERYは女性向けのサービスなので、自分がユーザーになることはありません。であれば、MERYで培った経験をもとに自分が本当に欲しいと思うもの、自分が本当に作りたいと思うものを『作ってみたい』気持ちが強くなっていきました」(有川氏)
事業を立ち上げるにあたって、有川氏は「2つのことを意識しました」と語る。ひとつは市場規模がとにかく大きいこと。もうひとつは自分の趣味でもある“余暇を楽しむ”領域であることだ。その結果、飲食と旅行、2つが事業アイデアとして浮かび上がった。
だが飲食の領域はすでに多くのスタートアップが参画しており、「お金が生まれやすい場所」にはサービスが密集して、競争が激しいと判断。飲食ではなく、旅行領域で事業を立ち上げることを決める。
「旅行領域は市場規模が巨大であることに加え、伝統的なプレーヤーで固定されていて、オンライン化があまり進んでいません。実際、身近な人に旅行の予約について話を聞くと、ネットは使わず家の近くにある旅行代理店で予約をしていたんです」
「例えば、洋服は試着しないとサイズ感が分からないなど、店舗で購入する意味は明確にあると思います。ですが、旅行は代理店で体験できるわけではないので、(オンラインで購入しようが)モノ自体に変化はありません。それでも“安心感”があるという理由で旅行代理店で予約する人が多くいます。今後、オンラインの接続時間は確実に増えていくにもかかわらず、安心してオンラインで旅行を予約できる環境が整っていない。なおかつ、そこに取り組むプレイヤーも見渡す限りいなかったので、それであれば『自分たちでやろう』と思ったんです」(有川氏)