そんなイギリスで、異変が起きた。2018年に、ジンの市場規模がウイスキーの市場規模を金額ベースで抜いたのだ。2019年の統計ではイギリスにおけるウイスキーの市場規模が約28億ドル(約2900億円)に対し、ジンの市場規模が約36億ドル(3800億円)とジン市場はウイスキー市場を大きく上回る(statista調べ)。
2010年時点ではウイスキー市場が約25億ドル(約2600億円)だったのに対し、ジン市場が約6億ドル(約700億円)だったことを考えると、ジン市場の急成長ぶりが分かるだろう。
この逆転現象はどうして起こったのか。アルコール産業に関するグローバルリサーチファームであるIWSRによると、ジンは「ever-innovating(常にイノベーションを起こし続けている)」であり、「ever-changing(常に変化し続けている)」からだという。筆者も、自身の経験からそのように感じている。ジンの特徴とは商品特性の自由さと、それ故にイノベーションが起きやすい点にあるのではないか。
ジンは最も自由でイノベーティブな蒸留酒
イノベーティブな蒸留酒であるジンと、伝統を重んじる蒸留酒であるウイスキー。両者の違いは音楽で例えるとわかりやすいかも知れない。ウイスキーがクラシックだとしたら、ジンはジャズのようなものだ。
基本的にウイスキーは麦を主原料(トウモロコシを主原料とするバーボンを除く)としており、生産されるエリアによって味や風味の特徴がある程度想像でき、また商品面でも熟成を大きな特徴としている。エリアによって細かいルールは異なるが、3年以上の熟成が基本だ。まさに様式美の酒類と言えるのが、ウイスキーではないだろうか。
一方で、ジンは“ジュニパーベリーを基調とする”というボタニカル(添加する植物)の最低限のルールはあるが、それ以外のルールは極めて自由だ。また、さまざまな果実や根、花などを用いることから香りの幅が広く、風味もさまざまである。
本来、酒類カテゴリは原料で分けられることも多いが、原料の穀物も麦、コメ、イモ、その他何を使用しても良い。このように製造面で多種多様なのがジン市場だ。そのため、常に新しい商品が開発され、品質面も年々進化している酒類カテゴリと言える。
筆者は元々酒屋を経営していたが、その当時の印象からしてウイスキーは消費の面でも、ある程度確立されたブランドであるイメージが強かった。一方で、ジンは商品さえ良ければ知名度が高くないブランドでも手に取ってもらえる機会が多かった。