このことからも、ジンは消費の観点からも新しいブランドが受け入れられやすい素地があると思っている。プロダクトの自由度が高く、また新しいものづくりが市場からも受け入れられやすい。ジンは音楽で言えば、決まりきった様式に囚われないジャズのような自由さがあると言える。

 

2020年以降のジンのイノベーション・テーマは「エシカル」

それでは、私たちが考えるジンのイノベーション余地とは何か。それはベーススピリッツ改革である。それにより、私たちが追い求める「エシカルさ」と、それによる「エシカルだから、もっと美味しい」の実現がセットとなる。

ベーススピリッツ改革について、まずはコンセプトを説明しよう。ジンの製造プロセスは大まかに2つの工程に分けられる。ひとつはベーススピリッツの製造あるいは購入であり、もうひとつはボタニカル(草木や果実、花など)の浸漬・再蒸留である。

実は、世界的に見てジンの蒸溜所のマジョリティはベーススピリッツを専門業者から仕入れている。無味・無臭に近いクリアな酒質のベーススピリッツは、さながら真っ白なキャンバスのようだ。そこにボタニカルを使って絵を描くので、自ずと作りたい香りの世界観が実現できる。ベーススピリッツ製造を自社でしなくていい分、時間も圧倒的に短縮できる。

ただし、繰り返すが規定のベーススピリッツを各社が使う場合、当然ながら元の白いキャンバスの特徴は似たり寄ったりになるので、ボタニカルによる絵だけで差別化しなければならなくなる。

私たちはこれに対し、日本酒を製造した際にできる副産物の酒粕から自社企画でベーススピリッツをつくる。そもそも酒粕とは何か。酒粕とは、酒ができたあとで搾った際に、フィルターの目を通らなかった「固体」部分である。

原料は「液体」として売られる日本酒と全く同じで、同じ発酵過程を辿ったものだ。もちろんアルコール分を含んでいるし、その蔵の日本酒が誇る香り(吟醸香など)をきちんと持っている。しかし、この酒粕は現在、粕そのままの使用シーンが限定されていることから、小さな酒蔵では産業廃棄物として処理されることも少なくない。

国税庁の調べによれば、純米酒や純米吟醸酒を作る場合には日本酒の半分の量の粕が出る。上記のようなスペックの日本酒を年間10万本作る蔵は(同じ瓶に入れたと仮定しリットル換算した場合)、その半分の5万本相当の酒粕を生み出すことになる。例えば日本酒を月に2本、年間24本ほど飲んでいる人がボトル12本分の粕を消費するだろうか。現実的にはそのようなことはあまりなく、需要が限られるため供給が需要を大きく上回り、したがって価値が付きにくいことになる。