文具などの日用品から存続が危ぶまれていた伝統行事まで、19年末時点で8000を超えるプロジェクトの“支援”が実行され、その幕を開けていった。ただ、6年の歩みの中で、中山氏の胸中にある違和感が生まれていたという。
「ユーザーが『支援』というボタンをクリックする時、どこか上から目線というか『助けてあげている』という意識に近い感覚なのかなと思うんです。僕らも長らくその言葉を使っていたのですが、僕が実際に購入する時の気持ちを考えてみると、もっとフラットに開発者の思いに共感しながら、『この挑戦を応援したい』という気持ちで買っているんです。アメリカから導入されて浸透したクラウドファンディングという言葉を使うのは便利だけれど、僕たちのビジョンの芯を食った言葉ではないのかもしれないと気づき、もう一度、自分たちの言葉で自分たちを表現しようと、創業メンバーで話し合うことにしました」(中山氏)
議論を重ねるうちに、ふと浮上した「応援購入」というワードに、全員が「それだね」と賛同。開発者側に立っていた軸足を購入者側にシフトしたことは、“新しい消費”に挑むステートメントでもある。
「多種多様な趣向に合う消費の選択肢がもっとあっていいと思っています。買うことが自己表現になり、愛着が湧くような買い物の形を増やしていきたい。“消費”という行動の価値そのものを変えていければと思っているんです」(中山氏)
プロジェクト数は1万1500件、応援購入総額は250億円へ
リブランディングから数カ月後には新型コロナウイルスの影響で、あらゆる産業がピンチになった。社会全体で生産と消費のあり方が大きく変わろうとする潮目に、「応援購入」という概念はフィットした。
地方の生産者の支援として、「オンライン陶器市」や「オンライン日本酒市」を開催すると、新規の会員も急伸。9月時点で会員数は約126万人を記録し、累計プロジェクト数は1万1500件、応援購入の総額は約250億円の大台に乗った。ステイホーム期間にキッチン用品などの需要が高まったことで、女性のユーザーも増えたという。
9月には全国ネットでテレビCMも投入した。中山氏自身、幅広い層から「見たよ」という反響を受け、手応えを感じている。
「薄く広くのマーケティング戦略は、Makuakeに合わないのではないかという指摘もあるかもしれません。けれど、愛着を持って応援の気持ちとセットで買い物をしたいニーズは、実は誰しも持っているはずだと、僕らは確信しているんです。応援購入と言語化されることで初めて刺激されるニーズはあるはずだと。その意味で、メディアとしての役割ももっと果たしていかないといけないと考えています」(中山氏)